2023 Fiscal Year Research-status Report
Theoretical and Empirical Research on Possibility of the Critical Bildung based on the Biography Analysis
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23K02055
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
野平 慎二 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (50243530)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 人間形成 / 批判性 / ビオグラフィ・インタビュー / 主体と構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和5年度は、批判的人間形成の可能性を解明する前提として、人間形成における主体と構造との関係について、①批判的ディスコース分析、②ハビトゥス論、③ナラティヴ学習という3つの立場からの理論的検討を行った。このうち、批判的ディスコース分析においては、構造主義の諸理論をふまえて主体が言説の構築物へと解体される一方、批判理論にもとづいて構造批判の可能性が示されていることが明らかとなった。ハビトゥス論においては、もっぱら主体に対して規定的に作用するものとして構造が捉えられていること、また構造が最初から実体として存在し主体に内在化されるのではなく、構造と主体の相互作用の観点から主体の形成を捉えることが課題となること、が明らかとなった。ナラティヴ学習においては、主体はそれまでの人生に対する筋立てや意味づけを踏まえた上で環境や構造に応答し、学習し、自己を変容させていく、という自己形成のモデルが前提とされていることが明らかとなった。また、批判的ディスコース分析、ハビトゥス論、ナラティヴ学習のいずれの立場も、ビオグラフィ・インタビューという経験的データとその分析をもとに各々の主張を根拠づけていた。J.バトラーのエージェンシー概念を何らかの形で援用している点も、3つの立場に共通していた。他方、批判理論に立脚する批判的ディスコース分析は構造に対する批判性をもっとも強く打ち出しているのに対し、ハビトゥス論やナラティヴ学習においては主体形成における構造批判の契機は必ずしも重視されていない、という相違がみられた。 以上のような理論的検討に加えて、外国に生まれ日本に在住している2名の外国人へのビオグラフィ・インタビューを実施した。 令和5年度の研究成果は『愛知教育大学研究報告 教育科学編』73号に論文として公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
批判的人間形成の可能性を解明する上で手がかりとなる、上記の3つの理論的立場のそれぞれについて、主体と構造との関係をある程度まで明らかにできた。また、それぞれの立場における主体の概念やその形成の把握の相違についても明らかにでき、さらには経験的分析の素材となるインタビューも実施することができた。バトラーのエージェンシー概念との関係の解明や、インタビューの具体的な分析などは、時間的な理由により令和5年度内に実施することができなかったが、今後取り組むべき課題として設定できた。以上のことから、現在までの進捗状況は、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和6年度は、令和5年度の研究で扱った諸理論における主体と構造の関係にかんする理論的、経験的分析を引き続き検討していく。批判的ディスコース分析では、構造主義と批判理論という2つの相反する理論的立場が援用されている。その援用の妥当性について検討を進める。ハビトゥス論では、一方では主体と構造の相互規定的関係が考えられているものの、他方では主体に対する構造の規定性が前面に打ち出されていることは否めない。また、構造を実体的なものと捉えてよいか、それとも相互作用のなかで事後的に浮かび上がるものとして捉えるべきか、という点も検討課題として浮かび上がっている。これらの点についてさらに考察を進める。ナラティヴ学習については、構造に対する主体の自律的な対応に焦点が当てられているが、こうした主体概念は新自由主義的発想と結びつきやすいことも指摘できる。ナラティヴ学習の理論における学習やアイデンティティ形成の概念のもつ批判的含意についても検討を進める。また、これら3つの理論的立場にとって鍵となるバトラーのエージェンシー概念の検討も並行して行う。 以上のような理論面での検討とあわせて、それぞれの立場におけるビオグラフィ・インタビューの分析とその妥当性について、分析の方法論および各理論的立場の主張との整合性という観点から検討を進める。あわせて、令和5年度に実施した2名の外国人のインタビューについて、上記の3つの理論的立場を踏まえつつ、主体と構造との相互関係という観点から分析を行う。 理論面での検討およびインタビューの具体的な分析の両方について、ドイツ教育哲学における人間形成論的ビオグラフィ研究の研究者と連絡を取り、必要に応じて情報提供や助言を得ながら進めていく。
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Causes of Carryover |
当初令和5年度にドイツ教育哲学におけるビオグラフィ研究の研究者への訪問を予定していたが、相手側と日程の調整がつかず、渡航することができなかった。そのため、旅費を中心に未使用額が発生した。令和5年度の未使用額については、令和6年度以降の旅費に充てることとする。 令和6年度分として請求した助成金は、当初の計画どおり、研究の遂行に必要な設備備品費、消耗品費、旅費その他として使用する。
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