2023 Fiscal Year Research-status Report
戦前の図画教育における小学校教員の美術的表現力習得に関する研究
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23K02333
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
長瀬 達也 秋田大学, 教育学研究科, 教授 (30333917)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 秋田県自由画教育教育 / 図画研究会 / 秋田県地方紙『秋田魁新報』 / 地方画家「伊藤弥太」 / 中通小学校訓導「山崎勝明」 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和5年度の主な研究実績は,秋田県自由画教育に貢献した秋田県地方紙『秋田魁新報』の掲載記事調査(本研究での対象は昭和6年(1931)~昭和13年(1938))に取り組んだことである。以前からの調査も含めて,昭和6年(1931)から昭和10年(1935)までの朝刊及び夕刊の全頁閲覧調査を終えた。この全頁閲覧調査を基に,同紙掲載の伊藤弥太「自由画選評(基本的に週1回掲載)」,秋田市中通小学校(秋田県図画教育の先進校)などに関する図画教育関連記事,秋田市における展覧会案内記事などを,Word版に画像貼付し,文字入力してデジタル資料として,分析を行った。 秋田県の地方画家である伊藤弥太は,旧制中学校のみの学歴だったが,『秋田魁新報』昭和11年(1936)4月18日付1面の「図画教育研究会成る」に拠れば,秋田県で初めての全県的な小学校教員の図画教育研修団体「図画研究会」の結成時,「顧問」に就任している。同じく「顧問」に就任したのは,当時の「文部省図書編纂員」の平田栄二と水平穰である。二人は東京美術学校卒業であり,平田(爵位継承者)にいたっては同校教授を務めている。 このような伊藤の秋田県図画教育での台頭過程を,作成したデジタル資料で確認した。そして,台頭の要因が中通小学校訓導「山崎勝明」など美術表現に意欲的な小学校教員や,秋田県文化人との交流にあったことを確認した。合わせて,『秋田魁新報』の伊藤弥太「自由画選評」へ応募した小学校教員に固定化傾向があったこと,伊藤が小学校教員に高い美術的表現力を要求したことも確認した。 以上の成果を第46回美術科教育学会弘前大会で発表した。発表概要は「秋田県図画教育における地方画家『伊藤弥太の台頭』」『第46回美術科教育学会弘前大会 研究発表概要集』(第46回美術科教育学会弘前大会実行委員会,2024,p.25)に掲載されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
秋田県地方紙『秋田魁新報』の朝刊及び夕刊の全ての掲載記事調査,及び必要箇所のデジタル資料化は,令和6年度が,昭和6年(1931)から昭和9年(1934)までの分であった。予定以上に進捗して,昭和10年(1935)までの調査及びデジタル資料化が完了した。 昭和10年(1935)年開催の図画科単独の「全国訓導協議会」の調査は,全579頁の同協議会全記録『臨時増刊 教育研究 日本の図画教育』第443号(東京高等師範学校附属小学校内初等教育研究会,1935)に拠った。同書に拠れば,全国各地の代表52名から発表があったこと,この発表内容から当時の国定図画科教科書『小学図画』の客観的分析や,積極的活用の研究が全国の教育現場で進展していたことが確認できた。しかし,研究対象図書に膨大な情報量が含まれていることや頁の剥離などがあることで,確認作業が遅れた。デジタル資料化は,高橋雄治(山形県師範学校)「図画教育に於ける生活指導の一分野」,斎藤長悦(秋田県横手高等小学校訓導)「図画科における教科課程と学習形態」,石井柏亭(国定図画教科書編纂委員・帝国美術員会員)「西洋画家の立場より」にとどまっている。 現在の小学校教員の美術的表現力習得状況等に関する調査(秋田県)は,調査の方法や内容等の検討にとどまった。 以上から,現在までの進捗状況を「やや遅れている」と判断した。,
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Strategy for Future Research Activity |
2年目の令和6年度は,次のように研究を推進する。 1.本研究における『秋田魁新報』の朝刊及び夕刊の全頁閲覧調査では,残りの昭和11年(1936)~昭和13年(1938))に取り組み,図画教育関係のデジタル資料化も完了を目指す。 2.令和5年度の研究を活用して,昭和10年(1935)年開催の図画科単独「全国訓導協議会」の調査とデジタル資料化を完成させる。合わせて,調査資料を収集して,昭和5年(1930)年開催の図画科単独「全国訓導協議会」の調査とデジタル資料化に取り組む。 3.上記1及び2で作成したデジタル資料をテキストマイニングによって分析して,当時の小学校教員の美術的表現に関する知識や技能の把握に取り組む。 4.秋田市造形教育研究会及び秋田県造形教育研究会の協力を得て,現在の秋田県の小学校教員の美術的表現に関する知識や技能を把握する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由は,1.必要な戦前の図画教育資料の中で購入できないものがあった,2.対象資料のデジタル化作業において対象資料の収集や整理が予定より遅延したため予定した人件費に余剰が生じた,3.秋田県の小学校教員へのアンケート調査を実施しなかったので郵送費等を使用しなかった,などである。 1と2については,令和6年度に使用予定である。3については,インターネットの活用も含めて,在り方を今後検討していく。
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