2023 Fiscal Year Research-status Report
音楽活動のフロー観察法を用いた音楽科における評価手法の開発
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23K02369
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Research Institution | Okayama Prefectural University |
Principal Investigator |
安久津 太一 岡山県立大学, 保健福祉学部, 教授 (00758815)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
菅 裕 宮崎大学, 大学院教育学研究科, 教授 (30272090)
岡田 信吾 就実大学, 教育学部, 教授 (80645276)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Keywords | 音楽教育 / 音楽表現 / 音楽科 / 評価 / フロー観察法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はコロンビア大学で開発された「音楽活動のフロー観察法」(Flow Indicators in Musical Activities, FIMA) を、我が国の音楽授業に応用し、評価がかかえる困難の解決を目指すものであった。2020年度から順次施行されている新学習指導要領では、「知識・技能」の習得、「思考力・判断力・表現力」の育成、「学びに向かう力・人間性など」の涵養を、育てたい資質・能力の3つの柱に据えている。特に表現領域の評価では、可視化可能な表現の成果、ワークシートや発言、テスト等、言語的な活動に依存せず、音楽活動中の表情の微細な変化や身体の動きなどの行動観察を加味することが求められる。2023年度は、予備的な調査と、先行研究の批判的検討、それらを現場の教師等と共有する作業を中心に研究が進められた。 2023年度の成果の一つとして、日本の子どもたちが電子テクノロジー、金属材料の相違による音色の違い、バイオリンの音色との接点の中で経験するフローの観察に関する国際論文を執筆することができた。2023年度中に執筆した内容が、すでに受理、出版されている。また関連する国際学会で、ワークショップ形式の発表を行うことができた。さらに、日本の音楽教育を、制度面及び歴史から論じた内容がOxford University Pressの著書チャプターとして採択された。 総じて、国際論文と学会発表の内容を中心として、電子テクノロジーによる楽器と伝統的な楽器、それぞれの関わり合いで観察されるフローを参与観察と叙述によりナラティブの手法を活用して、分析することができたことは大きな成果であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我が国の音楽科の評価において、「音楽活動のフロー観察法」の代替的・補完的導入が有効・有用か、先行研究の整理と検証が行われた。また、現場の教師等と研究者が協同してチームを構成し、同観察法及び背景となる理論を共有し、文献や映像等のアーカイブも用いて学術的な検討を加えてきている。いわゆるワークシートや実技も含むテストのみに依存しない、音楽活動中の児童・生徒の観察による行動観察、表情観察等による評価の重要性は提唱され、実感されており、今後はその具体的な手法を、開発し、その精度を上げることを目的とし、共有した。同観察法は、特に主観的かつ曖昧になりがちな感情面の評価を、言語的な活動に依存せず、音楽活動を通して、オンゴーイングに評価することができるツールだが、日本の学校教育の現場には、未だ導入されていない。初年度の2023年度は、関連論文等先行研究の批判的検討、加えて同観察法を少数の子どもたちや研究協力者等で試行し、その可能性と限界点を見極めた。先行研究には、FIMAそのものを扱った文献、FIMA-Rとして改訂した評価手法の信頼性と妥当性を確証するもの、さらにその他のフローの理論や評価を試みる内容、大きく3つに分類されることが明らかにされた。その強みと弱みを見極めて、2024年度は現場教師及び保育者等と同観察法を共有し、観察及び観察法の精度を高めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
少しずつすでに始動してきている、現場の教師等と研究者等が執り行う参加協働型アクションリサーチとして、研究を継続する。特にフロー観察を日本の音楽の授業の評価に応用することを、音楽科に必須となる代替的な評価手法の一手法として開発することを目指す。実践の中で観察されるフローを、オンゴーイングに見取りながら学習の調整に活かすことで、省察的、かつ対話・共創的な新しい音楽授業の実践的モデルを創発する。 2024年度と2025年度の2年間を見越しているが、日本の音楽授業にフロー観察を導入し、実証的に検証する。すでに信頼性と妥当性が日本以外複数の音楽授業の領域や内容、発達段階である程度証明されている観察法ではあるが、日本の学校教育における本格的な実施は初めてとなる。例えば低学年で扱う鍵盤ハーモニカや、中高学年で扱われるリコーダー、さらに吹奏楽系の楽器や、筝、ギターを含む伝統楽器群での検証は、まだ国際的にも行われていない。特にこの場合初学者が対象となるが、実践を通して、検証していく。さらにICTの活用として、電子テクノロジーによる楽器や、電子的な教科書、遠隔教育システムの活用事例におけるフローの検証も積極的に行う。 アメリカ合衆国と日本を含むその他の一部の国々で行われてきている音楽活動のフロー観察関連の研究だが、今後比較国際的見地からも、その評価の観点等を再検討する。さらに、音楽科教育以外のあらゆる音楽活動の場面も照準をあて、フロー観察法の応用の可能性を探索する。言語的なフィードバックに依存しない同手法だが、実践者が観察し、観点に沿って記述することでどの程度、観察の精度が保証できるか、Evidence-basedに対して、Narrative-basedの方向性がどの程度適用できるのか、その限界点も探索する。
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Causes of Carryover |
研究は概ね順調に経過したものの、一部のフィールド調査の日程調整に困難が生じ、したがって次年度使用額が発生した。
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Research Products
(3 results)