2023 Fiscal Year Research-status Report
歴史論争問題学習における「仕方なかった」という反応を減ずる倫理的判断のあり方
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23K02404
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
星 瑞希 北海道教育大学, 教育学部, 講師 (90966508)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡部 竜也 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (10401449)
鈩 悠介 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所, 西日本ブランチ広島オフィス, 研究補佐員 (40963492)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Keywords | 倫理的判断 / 現在主義 / 歴史教育 / 困難な歴史 / 歴史論争問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は歴史論争問題(「困難な歴史」)教授における「倫理的判断」を原理的に検討した。まず、歴史教育において「倫理的判断」を行う際には、歴史的事象を過去、現代のどちらの視点や規範から判断を下すのかが議論となり、現代の視点から判断を下す場合には、「現在主義」であるという批判を受けることになる。そこで、「現在主義」は歴史教育において許容すべきか、すべきではないか、それはなぜかを検討するために、Miles & Gibson(2022)を検討した。現在主義を避けることができる、また避けるべきだと生徒に教えることは、過去の人々は現在ではなく、その時代の倫理基準によってのみ判断できると考えるようになる恐れがあり、過去の不正は避けられないものであり、当時のほとんどの人がその不正を支持し、その不正は正当化されるものであると生徒に思い込ませる可能性がある。理性的な倫理的判断を下すには、社会的行動に関するさまざまな視点を振り返り、理解することが必要である。 次に、実際に「倫理的判断」を用いた授業の開発原理を検討しているMilligan, Gibson & Peck(2018)、Yoon(2022)を検討した。前者では、倫理哲学を倫理的判断のフレームワークとしていた。具体的には、過去の不正義の判断を、メタ倫理学、規範的倫理学、記述倫理学、応用倫理学の視点(問い)を適用されていた。 後者では、(1)歴史上の人物の道徳的価値と事実上の信念の区別、(2)道徳的価値と事実上の信念の合意状態の検討(3)自己の信念形成過程の信頼性評価の3つがフレームワークとして設定されていた。これらの枠組みを通して、生徒は過去の人物の道徳的価値と事実の違いを認識しながら、当時の人々は過去の人物の価値観や事実信条は同時代の人々とどの程度共有されていたのかを検討した上で、過去の人物の行為に対して倫理的判断を行う構成となっていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、歴史教育における倫理的判断を原理的に検討することができている。歴史教育における倫理的判断は国際的に新興領域であるため、各研究の評価はまだ定かではないが、国際的に評価の高い全米社会科協議会(NCSS)の機関誌Theory & Research in Social Studiesに近年掲載された3本の論文を中心にレビューを行った。そのことで、倫理的判断をめぐる国際的な議論の進展を理解するとともに、倫理的判断に基づく授業原理について理解を深めた。 東アジアにおいては日中韓の間で歴史認識問題が度々噴出するが、倫理的判断が求められる歴史論争問題における東アジアの固有性を探究した。具体的には、「和解学」の研究成果を検討することで、欧米圏とは異なる東アジアが抱える問題や解決策の固有性や困難性を検討した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は倫理的判断の原理的検討と、歴史論争問題における東アジアにおける固有性の理解を踏まえて、日本において過去の人々の判断に対して倫理的判断を行う授業を開発する予定である。具体的には、日本の植民地支配、独立運動の弾圧、関東大震災時における朝鮮人虐殺、日本軍「慰安婦」問題、徴用工問題などを候補に、歴史授業を開発し、次年度に実践に移せるように準備を行う予定である。
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Causes of Carryover |
当初、当年度で学会発表した内容を英字論文への投稿することを検討しており、その際のネイティブチェックに充てる資金を残しておいた。しかし、当年度内の英字論文への投稿を見送ったため繰り越しとなった。
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