2023 Fiscal Year Research-status Report
健康や食品に関する疑似科学的言説を見破る科学的リテラシーとは?
Project/Area Number |
23K02787
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
加納 安彦 名古屋大学, 環境医学研究所, 助教 (50252292)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
谷 伊織 愛知学院大学, 心理学部, 准教授 (10568497)
石井 拓児 名古屋大学, 教育発達科学研究科, 教授 (60345874)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 疑似科学 / 誤情報 / 健康食品 / ヘルスリテラシー / 科学メディアリテラシー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、健康や食品に関する疑似科学言説を中心に、人々はなぜ疑似科学言説や誤情報に惑わされるのかに注目する。初年度は、アンケート調査やインターネット上での広告分析のための準備を行うとともに、海外での研究状況を詳細に調査した。 1)海外の研究動向の調査:我が国における疑似科学や誤情報の影響についての研究は、諸外国に比べて遅れている。そのため、進展が著しい海外の研究成果をとり入れることが重要な課題である。海外の研究状況を改めて調査し、蔓延する疑似科学・誤情報の言説の特徴や実態、要因について知見を整理した。また、人々が騙されないための介入策、特に科学教育としてとり入れるべき知識やスキル、リテラシーに関する研究も進展しており、関連する文献を収集した。これらの成果は、総説論文として査読付雑誌に投稿中である。 2)「健康食品」広告の分析:これまで新聞に掲載された広告を分析してきたが、より広く受容されているインターネット、特にソーシャルメディアによる広告の分析を行うこととし、収集方法について検討した。 3)市民・学生の意識調査:疑似科学信念は、流布している言説は国によって異なっており、日本国内の状況を調査分析する必要がある。また、世代、生活環境によっても浸透している言説が異なると考えられるため、できる限り多くの言説を提示して、その認知度を確認しながら信念度合いを調査する必要がある。さまざまな文献や伝聞情報から、約100項目の言説をピックアップした。 4)批判的思考力や科学メディアリテラシーを身に付けるための教育:疑似科学や科学的誤情報に対処するための介入策として、プレバンキング(特に予防接種理論)や科学メディアリテラシーに注目して海外での知見を収集した。また、疑似科学について広く関心が持たれており、ラジオ番組で連続講座のようにして、特に健康に関わる疑似科学言説の特徴や関わり方について解説した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
疑似科学を科学的誤情報と位置づけ、広く誤情報に関する最新の知見について文献を渉猟した。誤情報に関する研究は2017年以降の進展(発表される文献の蓄積)が著しく、予想外に多大な時間を要した。しかし、現在の研究動向についてその全体像をつかむことができ、その成果を総説論文としてまとめ、現在投稿中である。 疑似科学言説が蔓延していると言っても、流布している言説は国によってかなり異なっている。今年度は広範な情報を収集することができ、今後のアンケート調査を行うに当たって、十分な知見を得られた。同時に、誤情報が蔓延する中で、どのように教育、特に科学教育を進めるのか関心が持たれている。アメリカを中心に、科学教育を通した介入策が検討されており、これらの知見から、とり入れるべき知識やスキル、リテラシーを整理した。合わせて、今後の学習指導要領の改訂に向けて、高校での総合的かつ基礎的な必修理科科目創設を目指す研究に参加し、新たなカリキュラムに関する提案を行った。 また、疑似科学・科学的誤情報は、科学教育に関わる研究分野では関心を持たれているテーマであり、他の研究機関や研究グループから依頼を受け講演を行った。また、広く市民の中にも興味や疑問がでており、テレビ番組(NHK「あさいち」、2024年3月)やラジオ番組(FM鎌倉「理系の森」、2023年10月、11月)でも取り上げられた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの成果を生かし、第2年度には以下のように研究を進める予定である。 1)広告内容の分析:インターネット、特にSNS上での広告に注目する。新聞の広告やテレビCMは多くの規制もあり、極端な誇大広告は存在しない。一方で、インターネット、特にソーシャルメディア上では十分な規制が行われていない。特にTikTokに注目し、マイクロターゲッティングされた動画広告を分析する。主要な利用者が若年者であるため、学生アルバイトを雇用して宣伝動画を収集する。収集した動画は文字起こしを行った後、テキストマイニング分析用に集計するとともに、KH coderにより分析する。 2)市民・学生の意識調査:疑似科学に対する信念を調査する。約100項目はリストアップ済であり、これらの言説の認知度を確認した後、信念度合いを尋ねる。合わせて、基本的な人口統計学的な情報やビッグファイブ特性などを調査し、関連を分析する。 3)教育課程の分析:2023年度で高校の新課程もすべての科目が揃い、教科書も購入済である。特に、「人体の構造と機能」がどのように取り上げられているのかについて、小・中・高校の各科目での教育内容を比較し、それらの系統性が保たれているのか否かを検証する。 4)批判的思考力や科学メディアリテラシーを身に付けるための教育:Web上の情報検索のためのスキルとして、ラテラルリーディングやクリック自制が重要であることが明らかになっている。英語圏では、こうしたスキルを育成するための教育リソースが書籍や論文、Webサイトを通じて提供されている一方、日本語で利用できるリソースは皆無である。国内で教材となる実例(Webサイトなど)を調査し、モデルとなる題材やカリキュラム案などを作成する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、海外の研究成果の収集を中心に行い、アンケート調査などへの支出がなかったためである。 1)成果発表や情報収集の機会を増やすために、国内学会への出席を予定している。既に1学会での発表と3学会への出席を予定している。 2)アンケート調査は調査会社に依頼する予定であり、相当額の支出を予定している。また、海外で利用されている心理学者尺度を翻訳して利用するため、翻訳を専門業者に依頼する。 3)研究成果を広く普及するために独自のWebサイトを設ける予定であり、そのために必要なソフトウェアの購入やサイト構築のための委託費を見込んでいる。
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Research Products
(7 results)