2023 Fiscal Year Research-status Report
地域のリスク感性調査による高専の新たな地域貢献に関する研究
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23K02829
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Research Institution | Fukushima National College of Technology |
Principal Investigator |
高橋 宏宣 福島工業高等専門学校, 一般教科, 教授 (90310987)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
車田 研一 福島工業高等専門学校, 化学・バイオ工学科, 教授 (80273473)
松本 行真 近畿大学, 総合社会学部, 教授 (60455110)
丹野 淳 福島工業高等専門学校, 都市システム工学科, 助教 (70845031)
笠井 哲 福島工業高等専門学校, 一般教科, 教授 (90233684)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | リスクコミュニケーション / 広域多画都市 / 災害時の主導的存在 / コミュニティFM / 福島県いわき市 |
Outline of Annual Research Achievements |
自然災害のたびに国や自治体は危機対応を検証し、専門家と連携してその後の災害に備えた危機管理体制を構築してきた。近年の自然災害が従来の科学的知見を超える規模でおこるという側面はあるものの、危機のたびに国や自治体の情報発信のあり方に疑問が呈され、場合によっては選挙の争点とさえなっている現実がある。自治体は地域の事情に即したハザードマップや避難計画を整備しており、災害発生時にはさまざまなチャネルを通じて住民に情報発信しているにもかかわらず、如上のような事態が発生するのは、情報の送り手である自治体と受け手である住民とのあいだのコミュニケーションにアクチュアリティーが欠けているためである。本研究課題は東日本大震災(2011年)とその後の原子力災害を経験した福島県いわき市に立地する福島高専に所属する研究者が中心となり、過去10年に経験した、東日本大震災、令和元年東日本台風(2019)による洪水、コロナ禍(2020~2022)における自治体と住民とのあいだのリスクコミュニケーションの実情を、量的調査(アンケート)、質的調査(ヒアリング)を通して明らかにする。地方の市町村は人口減少、少子高齢化に起因する複合的な問題を慢性的に抱え、その実情も各地で異なる。本研究課題は、いわき市特有の事情を浮き彫りにしつつ、その問題の存在を前提とした現実的で実効的なリスクコミュニケーションモデルの構築を目指している。研究期間初年度である2023年度は、東日本大震災と原子力災害に対し、自治体、マスコミ、町内会の関係者がどのような困難を経験し克服したかを探るため、関係者にヒアリングを行った。その結果から、いわき市が抱える課題が明らかになったほか、災害時に枢要となる避難行動、復興の課題について貴重な証言を得、これを記録した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度は、地域の実情に精通し官民に人脈を有する研究協力者の企画・調整のもと、東日本大震災への対応を経験した自治体、マスコミ、町内会関係者にヒアリングを実施した。その結果、本研究課題に関連する範囲で以下のことが明らかになった。 ①「広域多画」都市特有の問題:いわき市は明治・昭和期に合併をくり返し、昭和41年の5市4町5村合併によって現在の市制となった経緯がある。現在も旧市町村単位で人口の集積地が散在し、各地区の独立性が高いため他地区との連携が進みにくく、市としての一体感を生む工夫が求められている。 ②地域の中核人物を災害時に確保する問題:東日本大震災による津波の被害で、いわき市沿岸部の町内会では多くの役員が犠牲になった。即時対応が求められる際に主導的存在がおらず、それを受け継ぐ人材も限られる事態は、他の市町村でも起こりうる。災害による人的被害は事前の予想を超える場合があり、危機管理は二重三重に「だれが主導するか」を考慮に入れて計画される必要がある。 ③コミュニティーFMの果たす役割:東日本大震災と原子力災害が起きた直後、いわき市に残って報道を続けたのはFMいわきだけであった。そのためFMいわきには住民からさまざまな情報が集まっただけでなく、各種問い合わせや要望も寄せられ、情報のハブとして重要な役割を果たした。局には当時の記録が残っており、後世に生かす貴重な資料となりうる可能性がある。 関係者から直接話を聞くと、報道等を通して形成される社会の認知と地域住民の実感とのあいだに、事実の認識や公的機関への信頼度において隔たりがあるのを感じる。自治体と住民とのあいだでリスク/クライシスコミュニケーションを機能させるために、信頼感の醸成を含むまちづくり等の工夫が必要であることを認識した。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は以下について調査を進める。 ①当初の計画どおり、アンケート形式によるリスク感性調査を実施する。対象者は福島高専の学生、いわき市内町内会の住民を想定している。デジタルネイティブな若者と相対的にITスキルの低い高齢者では、危機の際の情報伝達の方法を分けたほうがよいと思われ、アンケートでは、リスク感度、コミュニケーション意識、望ましい情報伝達の方法が年齢毎に析出できるように問い、世代間で有意な差を認めることができればその違いをリスクコミュニケーションモデルに適用する方策を検討する。 ②引き続き、研究協力者のコーディネートのもと、東日本大震災及び令和元年東日本台風による被災経験者、マスコミ、防災関係者、まちづくりに携わる民間関係者へのヒアリングを実施する。ヒアリング対象者の選定は研究協力者に一任するほか、ヒアリングの場へも同席してもらい、本音を引き出すファシリテーターの役割も担ってもらう。特に2024年度は、いわき市に散在する人口集積地区を相互につなぐ知恵を引き出す聞き取りを進める。 ③東日本大震災の直後、いわき市に残ったマスコミがFMいわきだけであったのは先に述べたが、局にはリスナーから寄せられたメッセージが紙媒体で保管されている。災害直後の住民行動を検証できる貴重な資料であり、そこから防災に携わる関係者が教訓を引き出す意義は大きい。そのため、公開可能な範囲で出版したいと考えており、今後関係各位との調整をへて企画・編集手続きを進める。 2024年度で研究課題に関する量的調査(アンケート)、質的調査(ヒアリング)はおおむね終了するが、リスクコミュニケーションモデル構築のプロセスに福島高専の学生が参画できる機会を設け、彼らが将来いわき市のリスクコミュニケーションに携わる人材となることを構想している。
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Causes of Carryover |
2023年度のヒアリング調査が年度末まで続いたため、協力者の業務完了報告の提出が翌年度となった。謝金の支払は完了報告をもってなされることになっており、謝金が2024年度の支出に繰越となった。また、アンケート調査の実施も2024年度となり、そのための経費も繰り越している。ヒアリング調査は対象者の都合に合わせて予定を組まざるをえないが、2024年度はなるべく前期に予定が完了できるよう協力者とのあいだで調整を進める。2024年度は研究者間の打ち合わせの機会を増やし、調査旅費が長期休業中を利用して執行できるよう計画したい。
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