2023 Fiscal Year Research-status Report
関数空間におけるマルチンゲールの諸性質:フィルトレーションごとの研究
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23K03146
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
菊池 万里 富山大学, 学術研究部理学系, 教授 (20204836)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Keywords | マルチンゲール / 重み付き不等式 / フィルトレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
令和5年度は、固定された確率空間上のマルチンゲールが作る空間上の劣線形作用素に対して、その重み付き不等式の研究を進めた。確率空間上の荷重(期待値が1の正値確率変数)wがフィルトレーションF=(F_n)に対してA_p-条件(1<p<∞)を満たすとは、E[(w_n/w)^(1/(p-1))|F_n](n=1,2,3,...)が一様有界な確率変数列になることである。ここにw_nはwのF_nに関する条件付平均値E[w|F_n]を表す。これは実解析学に於けるMuckenhouptのA_p-条件の確率論的類似である。 実解析学に於いては、「劣線形作用素Tがある固定されたp(1<p<∞)とA_p-条件を満たすすべての荷重wに対して、荷重Lebesgure空間L^p(w)からそれ自身への有界作用素であれば、任意に固定したq(1<q<∞)に対して、TはA_q-条件を満たすすべての荷重vに対してL^q(v)からそれ自身への有界作用素になる」ということが知られている。マルチンゲール理論においても同様の命題が成り立つことが予想される。令和5年度には、この問題を解決すべく研究を進めた。その結果、ある特定のフィルトレーションについては、求める結果が得られた。しかしながら、一般のフィルトレーションを考察する場合、「同様の命題が成り立つためには、フィルトレーションが正則性のような良い性質を持っていなければならないであろうと」ということが分かってきた。この研究について、まだ目指す結論には至っていないが、このようにフィルトレーションに大きく依存する性質を明快にすることが本研究の主要な目的であることを思えば、引き続きこの研究を進めることは重要であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで長くマルチンゲール理論の研究に携わってきた研究代表者の経験から、フィルトレーションに依存するマルチンゲールに関する性質は取り扱いが難しいことが予想された。それを知った上で(それを知っているからこそ)敢えてフィルトレーションに大きく依存する性質を本研究の主題とした。令和5年度に実施した研究もフィルトレーションに強く依存した性質の研究であり、簡単に成果の得られる研究ではないことを予想していた。その一方で、研究の結果、ある特定のフィルトレーションについては、予想される結果が成り立つことが分かった。それだけで論文として発表するには十分な結果とはいえないため、更なる研究が必要であるが、目指す成果が明確になったこと、部分的な成果が得られていることから「おおむね順調に進んでいる」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和6年度は令和5年度に引き続き、「劣線形作用のL^p(w)に於ける有界性とA_p-条件に関する研究」を進める。更にこの研究が順調に進めば、「劣線形作用素Tがある固定されたp(1<p<∞)とA_p条件を満たすすべての荷重wに対して、L^p(w)からそれ自身への有界作用素であれば、任意に固定したq(1<q<∞)に対して、上Boyd指標が1/qより小さい再配列不変空間XにA_q-条件を満たす荷重vを施した空間X(v)上でTが有界作用素になる」という予想を証明する研究を進めたい。 令和5年度に実施した「劣線形作用のL^p(w)に於ける有界性とA_p-条件に関する研究」がうまく進まない場合には、固定したフィルトレーションF=(F_n)に関するマルチンゲールに対して、Doob型、Burkholder-Davis-Gundy型の不等式の成り立つBanach関数空間Xが満たす十分条件を導く研究に切り替えて、研究を進める。
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Causes of Carryover |
令和5年度は、新型コロナウィルスの蔓延の影響を受けたことにより研究期間を延長した科研費(17K05291)の最終年度に当たっており、この科研費による研究と本研究を同時に進めることとなった。本研究を進めるうえで必要となる旅費の殆どを研究期間を延長した科研費で賄うこととなった。また、必要な物品についても研究期間を延長した科研費の物品費で賄うことができた。このため、本科研費の利用は旅費1件のみとなり、残った予算は次年度に使用することとなった。 令和6年度は、令和5年度の未使用額と併せて、80万円程を旅費として、25万円ほどを物品費として使用する予定である。その場合に、更に40万円ほどが残ることになるが、この40万円については、その翌年度に利用することとしたい。このような対応により、毎年の使用額を増額することを予定している。
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