2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23K03261
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
菊池 誠 大阪大学, サイバーメディアセンター, 教授 (50195210)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 進化シミュレーション / マルチカノニカル・モンテカルロ法 / 変異に対する頑健性 / 表現型選択 / 遺伝子制御ネットワーク / タンパク質 / タンパク質の折れたたみ能力の進化 / タンパク質の機能の進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
23年度は(1)変異に対する頑健性による表現型選択(2)タンパク質の機能と折れたたみ能力の共進化、のふたつの研究を行った。 (1)では、遺伝子制御ネットワーク(GRN)の抽象的なモデルを設定し、マルチカノニカルモンテカルロ法(McMC)により、適応度の全範囲にわたってGRNをランダムにサンプリングした。用いたモデルでは適応度が高い時に単安定・トグルスイッチ・一方向性スイッチの3種類の安定性を持つGRNが出現する。これらを区別できる三つの表現型とみなし、適応度に対してそれらの出現率を調べた。同じモデルに進化シミュレーションを行い、同じく表現型の出現率を調べて比較したところ、進化では一方向性スイッチの出現が大きく抑えられることが明らかになった。GRNの突然変異に対する頑健性を調べてMcMCと進化を比較すると、McMCでは一方向性スイッチに変異に対して頑健でないものが多く含まれるのに対し、進化ではそのようなGRNの出現が選択されていなかった。この結果は、進化では変異に対する頑健性を強める選択バイアスが働き、そのせいで表現型の出現率が変わることを示している。 (2)では、タンパク質の折れたたみ能力の起源を調べた。タンパク質は細胞内で折れたたんで機能を果たすが、折れたたみ能力は進化の選択圧とはなり得ない。選択圧となるのは機能である。そこで、タンパク質の機能が進化すると自動的に折れたたみ能力を獲得するという仮説を立て、簡単な格子タンパク質モデルを構成して検証した。モデルは疎水性アミノ酸と極性アミノ酸それぞれ二種からなる。特定の部分構造を機能部位と定義し、機能部位の出現率の熱平均を適応度として、McMCによって適応度の全領域にわたってアミノ酸配列をサンプリングしたところ、適応度が高いアミノ酸配列は折れたたみ能力を持つことを見出した。すなわち、機能が高いタンパク質は折れたたみ能力を持つ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
遺伝子制御ネットワークの進化の研究では変異に対する頑健性による選択バイアスのために表現型が選択されるという新しい表現型選択メカニズムを提案できた。この結果はふたつの国際会議で口頭発表し、プレプリントを公表した。また、タンパク質の進化については、当初計画と幾分違う形ではあるが新しいモデルを提案するとともに、機能と折れたたみが共進化する描像を提案できた。この結果は国内学会で発表した。以上より、本課題で当初計画した研究は順調に進んでおり、すでに計画の半分程度の内容は実現できたと言ってよい。特に、マルチカノニカル・モンテカルロ法と進化しミョレーションを比較するという申請者らが提案した新しい手法をどちらの問題にも適用したことは特筆すべきである。しかしながら、結果はまだ学会発表またはプレプリント刊行段階にあり、論文刊行には至っていないため、評価は「おおむね順調」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、これまでに得られた結果についての論文刊行を急ぐ。遺伝子制御ネットワークの表現型選択についてはすでに論文投稿を済ませている。タンパク質の機能と折れたたみ能力の共進化については、現在プレプリントを執筆中である。 これまでの研究進捗が順調であることから、研究計画の大きな変更は必要なく、このまま進めることとする。まず、遺伝子制御ネットワークについては、進化過程での有効自由度の次元低減を大きな課題とする。次元低減が観測しやすい適応度の設定はすでに検討済みであり、今後具体的な計算を実行する。その際には申請者らが提案しているマルチカノニカル・モンテカルロ法と進化シミュレーションの比較という手法が有効なはずである。 タンパク質については、当初の研究計画と幾分違う形で進化のシナリオを提案できたので、研究計画はそれに合わせて少々変更する。これまでの研究では変異に対する頑健性を検討していないので、特にその問題に焦点を当て、遺伝子制御ネットワークと同様にタンパク質でも変異に対する頑健性による選択バイアスが働いている可能性を調べる予定である。
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Causes of Carryover |
投稿中の論文が年度内に採択にならなかったため、掲載料相当額が次年度使用となった。論文が採択されれば、掲載料に充当する計画である。
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