2023 Fiscal Year Research-status Report
Theory of the effect of dissipation in the nonlinear response of magnets
Project/Area Number |
23K03275
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
石塚 大晃 東京工業大学, 理学院, 准教授 (00786014)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Keywords | 光起電効果 / シフト流 / スピン流 / フォノン / 非線形応答 / ペルチェ効果 / 非線形応答理論 / 非平衡グリーン関数法 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、非平衡グリーン関数法を用いた軌道流の計算を行った。まず、フロケ理論とケルディッシュ・グリーン関数法を組み合わせることで、開放系における非線形応答を計算するためのコードを開発した。さらに、ベンチマークを行い、このコードで最大1000サイト程度の規模の系まで計算を行えることを確認した。以上により、本研究を進める上で最も重要なコードの開発を完了した。 次に、このコードを用いて、BHZ模型を1次元化した1次元BHZ鎖における軌道流の計算を行った。そして、(1)この系で軌道流が生じること、および(2)軌道流によってBHZ鎖の両端に誘電分極の蓄積が生じることを確認した。さらに、(3)バンド反転によって軌道流の向きが変化すること、(4)試料端に蓄積した誘電分極の侵入長がBHZ鎖のギャップと相関していることなどを確認した。以上のように、BHZ鎖における軌道流の蓄積を詳細に解析し、その基本的性質を明らかにすることができた。 さらに、これまでの研究で得られた光誘起スピン流の知見を応用して、フォノンによる熱流の整流効果の研究を行った。まず、光によるフォノンの整流効果の一般公式を非線形応答理論を用いて定式化した。そして、この公式を元にして、(1)フォノンの整流効果がシフト・ベクトルに比例し、シフト電流と類似の現象であること、(2)現在利用可能な強度の光源でも、通常の熱流測定と同程度の熱流を生じさせることができること、(3) シフト電流と異なり、3つ以上のフォノン・バンドが必要なことなど、フォノンの熱流の基本的性質を明らかにした。この研究によって、光によるフォノンの整流効果が存在すること、整流されたフォノンによって生じる熱流が実験的に測定可能な強度に達することを確認できた。さらに、これらの成果をまとめ、論文を投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本課題の目的は、光誘起スピン流や光誘起軌道流における散逸や角運動量・軌道電荷の非保存性の影響を調べるため、非平衡グリーン関数法を用いた数値シミュレーションにより光照射下のスピン流や軌道流の振る舞いを解析することにある。具体的な研究手順として、(1)まず、非平衡グリーン関数法のコードを開発し、(2)コードの計算速度を改良して十分に大きなサイズの系で数値計算を行えるように改良し、(3)数値シミュレーションの結果を元に散逸や非保存性の影響を解析する。本年度は、当初の計画に沿って(1)非平衡グリーン関数法のコードの開発と、(2)本研究に必要な計算性能を実現することに成功した。さらに、このコードを用いて(3)軌道流の数値シミュレーションと結果の解析に取り掛かることができた。以上のように、本研究において核となる計算用コードの準備が完了し、当初の予定を繰り上げて結果の解析にも取りかかることができた。したがって、当初の予定を上回る速度で研究が進展している。 さらに、上述の軌道流に関する研究を進める過程で、フォノンの非線形応答がペルチェ効果に類似の現象を引き起こす可能性に気がついた。今年度は、このフォノンの非線形応答の解析も進め、フォノンによるペルチェ効果が実現可能であることを明らかにした。加えて、通常の非線形応答と異なり、3つ以上のフォノン・バンドが必要なことや、既存の実験技術で実験的に測定可能な強度の応答が得られることなどを見出した。 以上のように、本計画において中核を成す計算コードの開発を完了し、結果の解析にも取り掛かることができている。さらに、本課題をきっかけとして、当初の計画にはない新現象を発見するに至り、その基本的性質を明らかにすることができた。よって、当初の予定を上回る進展が得られていると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、今年度開発したコードを用いて、引き続き軌道流の解析を行う。さらに、緩和の影響を詳細に調べる。これらの結果が揃った段階で、本結果を論文にまとめる予定である。 続いて、1次元系のコードを拡張して2次元系の解析を行い、BHZ模型で提案したトポロジカル相転移と軌道応答の係数の関係を検証する。2次元系の場合も、一次元系と同様に解析を行い、軌道流の非保存性の影響や散逸の効果を明らかにする。 また、得られた結果について学会等で発表を行うと共に実験グループとの議論を進める。これらの活動を通して、実験的検証に向けた準備を進める。 最後に、軌道流のコードを流用してスピノン流による光誘起スピン流を解析するためのコードを開発する。スピノン流の場合も軌道流とほぼ同様に扱えることから、比較的早期にコードの開発を終えられると考えている。 以上のステップを来年度中に完了し、再来年度以降はスピン流の解析に取り掛かる予定である。
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Causes of Carryover |
今年度は、本研究課題の遂行に用いるための計算機の購入を予定していた。しかし、2023年度秋に発売された、購入予定のCPUの価格が昨年度のものより大幅に上昇しており、当初の予定していた金額での購入が不可能になった。そこで、代替製品の購入を計画したが、CPU自体の発売予定日が2023年末-2024年春であったため、年度内の購入を断念した。 繰越分については、今年度中に計算機を購入し、運用を開始する予定である。応募当初を上回る円安状態が続いているため、繰越額だけでは代替製品の購入が難しいと考えられる。そこで、2024年度分も用いて計算機を購入する。
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