2023 Fiscal Year Research-status Report
Precise test of the B-meson quantum entanglement based on a new method for event topology determination
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23K03429
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
樋口 岳雄 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 教授 (40353370)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
住澤 一高 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 講師 (40379293)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | Belle II実験 / 素粒子物理学 / 量子力学 / 量子もつれ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、Belle II実験の電子-陽電子衝突から対生成される中性B中間子対に着目し、その量子もつれパラメータ(量子もつれの程度)を、B中間子の崩壊位置決定に新しい方式を用いることによって、これまでにない高精度で決定し、もって量子力学の検証を行うことを目的とする。 まず、本研究を進めるうえで技術的な共通点が多く、技術開発のリファレンスとなるB中間子の崩壊位置情報を使って時間に依存したパラメータを測定する研究をBelle II実験グループと協力して進めた。これにより、B0→KSπ0とB0→φπ0の各崩壊モードに対してCP対称性の破れのパラメータを決定したほか、B0→D(*)-π+の崩壊モードに対してB0-B0bar混合のパラメータとB中間子の崩壊寿命を決定した。これらの研究成果は学術論文や国際会議で公表した。並行してB0→KSKSKS、B0→η'KS、B0→KSπ0γ、B0→J/ψKSの各崩壊モードに対するCP対称性の破れのパラメータを測定し、学術論文の公表準備を進めた。 また、B中間子がdoubly Cabibbo suppressed decayをすることによってB中間子フレーバーの決定を誤り、CP対称性の破れや量子もつれパラメータの測定に影響を与える効果 (tag-side interferenceと呼ぶ) の見積もりについて、研究分担者と議論のうえ従来手法を大幅に改めてモンテカルロシミュレーションによる方法を考案し、その実装に着手した。 他方、量子もつれに関する研究では、博士課程の大学院生と協力して、量子論研究の専門家との議論や先行研究の諸文献の精読を進める一方、文献で明らかにされていなかった「B中間子の対生成直後から量子もつれが失われている状態 (spontaneous disentanglementと呼ぶ)」の時間発展の表式を確定することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者をとりまく研究者らの協力によって、本研究は良好に進捗している。 B中間子の崩壊位置情報を使って時間に依存したパラメータを測定する研究では、Belle II実験の研究者との協力により、査読付き学術論文を3本公表したほか、無査読の学術論文も3本公表した(この無査読論文は同じ内容のものを論文誌に投稿中)。総じて良好な成果をあげているといえる。 Tag-side interferenceの見積もり方法の改善では、研究分担者との有意義な議論によって、モンテカルロシミュレーションによる見積もり方法が具体的に確認され、シミュレーションを実装して効果の見積もりを残すのみの段階にまで落とし込んだ。 他方、博士課程の大学院生が本研究に参加するようになり、研究チームの陣容が強化されて研究の進捗スピードが向上した。量子論研究の専門家との議論はこの大学院生の自発的な活動によるものである。本研究の計画当初は、量子もつれ状態が破綻しているケースについて、どのように破綻しているかの場合分けまでをして量子もつれパラメータを測定することを検討していたが、そういった場合分けは省略して研究しても差し支えないと専門家に指導いただくなど、大学院生の研究活動も重要な要素となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の中核的なアイディアは、対生成されるB中間子のうち一方のB中間子(Bsig)の崩壊位置と運動量を完全に決定することで、他方のB中間子(Btag)の位置決定精度が向上し、それによって量子もつれパラメータの決定精度も向上させられることである。 Bsigの再構成では、Bsigの崩壊モードをB0→D(*)-π+のように一意に指定(限定)して再構成する方法(exclusiveな方法)と、Bsigの崩壊モードを指定せず統計的・確率的に再構成する方法(inclusiveな方法)の2つがある。崩壊モードを限定しない分だけinclusiveな方法の方がBsigの再構成効率は高くなるが、inclusiveな方法の場合は中間状態のD中間子などを明示的に再構成しないことによってそれら持つ有限の飛行距離の効果を考慮に入れられないため、Bsigの崩壊位置が高精度に決定できるのかについてははっきりしていない。実際にinclusiveな方法でBsigを再構成し、Bsigの崩壊位置決定精度を評価することで、Bsigの再構成をexclusiveな方法で行うのかinclusiveな方法で行うのかの決定してゆく。これが今後の研究でもっとも重要なマイルストーンである。再構成方法が確定したら、事象再構成効率の評価やqqbar事象(バックグラウンド事象)の排除方法の検討などに進む。 これらの後、B中間子の崩壊位置情報を使って時間に依存したパラメータを測定する研究の成果を活かし、BsigおよびBtagの崩壊位置の再構成とBtagフレーバーの決定を経て、最尤関数法による量子パラメータの決定に進む。
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Causes of Carryover |
研究分担者で予定していた国際会議への出席・成果公表が実際には発生せず、その旅費・参加登録費として計上していた予算が未使用となったことが、次年度使用額が発生した主要な理由である。研究アクティビティに問題はなく、成果公表の機会だけの問題であり、令和6年度以降の国際会議にて成果公表をするよう研究分担者には働きかける。なお、研究代表者は令和5年度に国際会議で2回の研究成果の公表を行っており、本科研費全体としては十分に成果公表を行っているといえる。
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