2023 Fiscal Year Research-status Report
過去50万年の琵琶湖・海洋花粉分析からみる温暖期の森の脆弱性と日本海効果の評価
Project/Area Number |
23K03520
|
Research Institution | Lake Biwa Museum |
Principal Investigator |
林 竜馬 滋賀県立琵琶湖博物館, 研究部, 専門学芸員 (60636067)
|
Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
|
Keywords | 環境変動 / 古生態 / 森林動態 / 花粉分析 / 日本海変動 / 景観復元モデル / 因果推論 |
Outline of Annual Research Achievements |
温暖化によって日本のブナ林や亜高山帯林の衰退が危惧されているが、将来の温暖化地球のアナロジーと考えられる過去の温暖期(間氷期)においては、時期によって日本の森の温暖化応答が異なっていたことが明らかになった。特に、海水準の変化で暖流の流入が激しく変動する日本海の効果によって、降水や降雪の気候条件が変化し、温暖化に対する森の脆弱性に影響することが示唆されている。 本研究課題では、過去50万年間における温暖期の森の脆弱性と日本海効果について評価を行うため、「1-1 琵琶湖高島沖コアの陸域花粉分析」を行い、森の分布と植生割合の変化を定量化するための「1-2 景観復元モデルを適用」する。さらに、森と日本海のリンケージを解明するため、「2-1 日本海鳥取沖コアの海洋花粉分析」を高時間分解能で実施し、森と日本海環境の変化の「2-2 因果関係を解析」する。 2023年度には、(1-1)琵琶湖高島沖コアの花粉分析処理作業を進めた。また、陸上花粉分析データを基にした、(1-2)景観復元モデルの適用と検証を行うための基礎データとして、亜寒帯植生の花粉生産量推定調査と北海道の遺跡における花粉分析データの収集を実施した。さらに、(2-1)日本海鳥取沖コアの花粉分析処理作業についてもあわせて実施し、日本海の暖流による花粉堆積過程の影響の把握を目指して五島列島周辺海域における表層堆積物の採取も行った。今後は、琵琶湖コアと日本海コアの花粉分析を推進していくとともに、景観復元モデルの適用に向けた基礎研究と、日本海効果による花粉堆積過程の変化や森の脆弱性に及ぼす影響についての研究を進めていく予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度には、(1-1)琵琶湖博物館に保管されている琵琶湖高島沖コアについて、未だに研究されていない15万年前以前を対象にした花粉分析処理を進め、15~40万年間について約2000年間隔で連続的に分析を行うための作業を実施した。2024年以降にも処理作業を継続して進め、順次連続的な分析と温暖期における高時間分解能での分析を進めていく予定である。 また、2000年代になって、花粉飛散堆積モデルを基にして花粉化石の組成から過去の植生割合を定量的に復元するための「景観復元モデル」が開発され(Sugita 2007a, b)、世界的にこのモデルを活用した応用研究が進められている。本研究では、陸上花粉分析データを用いて過去の森の植生割合とその変遷を定量的に把握するため、琵琶湖高島沖コアの花粉分析データについて景観復元モデルの応用を目指している。2023年度には、陸上花粉分析データを基にした、景観復元モデルの適用を行うための基礎データとして、北海道雌阿寒岳周辺における亜寒帯植生の花粉生産量推定調査を実施した。さらに、亜寒帯地域における景観復元モデルの検証を行うためのデータとして、北海道の遺跡における花粉分析データ収集を目的とした文献調査を実施した。 海洋花粉分析については、琵琶湖高島沖コアの処理とあわせて、日本海鳥取沖コアの花粉分析処理作業についても実施した。日本海鳥取沖コアの分析については、過去5回の温暖期における分析を約500年間隔で実施し、温暖期の植生変化を高い時間分解能で解明することを目指している。加えて、日本海の暖流による花粉堆積過程の影響を把握するため、産業総合研究所の海洋地質調査に参加し、五島列島周辺海域における表層堆積物の採取も行った。本表層堆積物試料については、今後分析を実施していくことにより、日本海コアの花粉分析結果の解釈に応用していく予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
2024年度には、(1-1)琵琶湖博物館に保管されている琵琶湖高島沖コアについて、未だに研究されていない15万年前以前を対象にした花粉分析処理を引き続き進めていくことで、15~43万年間について約10000年間隔で連続的に分析を行う。また、(2-1)日本海鳥取沖コアの花粉分析処理作業についてもあわせて継続し、完新世の温暖期における約500-1000年間隔での温暖期の植生変化を高い時間分解能で解明する計画である。さらに、陸上花粉分析データを基にした(1-2)景観復元モデルの応用を目指して、Hayashi et al. (2022)による各植物分類群の花粉生産量に亜寒帯性樹種を加えた新たなデータセットを構築し、琵琶湖堆積物と北海道の遺跡における花粉分析データを用いた景観復元モデルの適用を検討していく。また、日本海における海洋花粉分析データの飛散堆積過程を理解することを目指し、日本海の暖流による花粉堆積過程の影響を把握するため五島列島周辺海域における表層堆積物の花粉分析についても進めていく予定である。
|
Causes of Carryover |
コロナ感染症対策のために2024年に延期された国際学会への参加旅費として使用するため。
|