2023 Fiscal Year Research-status Report
シダ植物の葉ワックスを構成する化合物についての有機地球化学的研究
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23K03563
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
後藤 晶子 京都大学, 生態学研究センター, 研究員 (00422791)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福島 慶太郎 福島大学, 食農学類, 准教授 (60549426)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | シダ植物 / 直鎖飽和アルキル脂質 / 安定同位体比測定 / 葉ワックス |
Outline of Annual Research Achievements |
葉ワックスを構成する化合物は水の侵入や過剰な蒸発を防ぐ働きのほか様々な機能をもっていることが知られている。これら葉ワックスを構成する化合物の違いや変化がシダ植物の進化にどのように応答しているのかを調べるために、これらに大きく影響すると考えられる環境による要因を最大限排除した条件で、多様な種類のシダ植物について葉ワックス構成化合物の組成や量、安定同位体比を調査することを目的としている。 環境による要因を最大限排除した多様な種類のシダ植物のサンプリングが可能であるかの予備調査を、京都大学の芦生研究林でおこなった。予備調査では、林道に沿った幅10m程度までの斜面に数~十数種類のシダ植物が観察できる場所を複数確認し、同一斜面で同時期に生育している条件下で複数の種類のシダ植物試料がサンプリングできることがわかった。また、春と秋では同じ斜面に一部異なるシダ植物が生育することも確認できた。 サンプリングが長時間になるため、採取後そのままの状態では多くのシダが萎れたり変色したりしてしまい、その後の分析への影響が懸念された。採取後に野外でも可能な一時的な保管についていくつかの方法を検討し、現場で観察と記録をおこなった後にその場で洗浄、凍結保管して冷凍のまま実験室まで輸送することが最善であると判断して、この方法について予備調査での試用と改良を進めた。 次年度以降の本格的なサンプリングに向けて、予備調査を兼ねて採取したシダ植物試料を用いて、葉ワックスの主成分である直鎖飽和アルキル脂質(長鎖n-アルカンと長鎖n-脂肪酸)の組成と量についての予備実験と分析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
サンプリング時の野外での試料採取や観察方法と現場での前処理と保管の方法についての検討をおこなったのち、初年度の計画に沿って京都大学の芦生研究林での予備調査を進めた。芦生研究林では、林道に沿った幅10m程度までの斜面に数~十数種類のシダ植物が生育している様子が複数の場所で観察でき、同一斜面で同時期に生育した条件下で多種類のシダ植物試料のサンプリングが可能であることが確認できた。また予備調査の実施時には、事前に検討した野外での前処理や凍結保管方法などを含むサンプリング手順についての試用をおこなって改良を図るとともに、予備実験用の試料を数点採取した。現在、本格的なサンプリングに向けて予備実験用試料の前処理と分析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
芦生研究林での予備調査と入手した試料での予備実験と分析の結果をふまえて、今後、芦生研究林で複数回のサンプリングをおこなう計画である。進化系統に沿った議論を進めるため、広く科を網羅した多様な種類のシダ植物を同一の斜面から採取することを予定している。同一斜面中で網羅しきれなかった科については、同一斜面での条件よりは粗くなるものの、研究林内は降水量や気温、土壌環境などの環境条件がほぼ同一であると見なして補完できる試料のサンプリングをおこない、より密に進化系統を追える試料セットを獲得する計画である。 採取した試料は凍結乾燥をして粉砕した後、有機溶媒を使用して葉ワックス成分である脂質を適宜抽出する。さらにこれを分画することで性質が類似した有機化合物群への分離をおこない、化合物ごとに必要な前処理を施してGC、GC-MSで分析する。葉ワックスの主要な成分である直鎖飽和アルキル脂質(長鎖n-アルカンと長鎖n-脂肪酸)についての測定をまず始めに進めて、これらの化合物での組成と量についての結果を明らかにするとともに、これらを進化系統と照らし合わせることで種類の異なるシダ植物の葉ワックスにみられる特徴の違いと進化との関係について議論していく予定である。さらに、本研究目的の達成において重要度の高い試料を厳選し、安定同位体比測定やほかの有機化合物の分析へと展開を図っていく計画である。
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Causes of Carryover |
サンプリング時の野外での観察や記録方法、試料の現場処理法の検討にやや時間を要したため、予備調査での採取試料の測定に向けた予備実験の進行が年度をまたぐ結果となった。このため、予備実験のために計上した実験器具や有機溶媒、試薬、ガス類の購入が当初の予定よりも少なくなっており、次年度使用が生じることとなった。今後、予備実験を随時進めていく計画であり、それにともなって次年度使用が生じた経費についても使用する見込みである。
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