2023 Fiscal Year Research-status Report
複合物理解析による反強磁性体スピンダイナミクスの解明と超省電力THz発振器の設計
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23K03961
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
大貫 進一郎 日本大学, 理工学部, 教授 (80386002)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岸本 誠也 日本大学, 理工学部, 助教 (90843053)
中川 活二 日本大学, 理工学部, 特任教授 (20221442)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 複合物理解析 / マルチスケーリング / 時間応答 / 磁性体 / 磁化のダイナミクス / 電磁波 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、①磁化の運動と電磁波の相互作用を解析する複合物理計算の高速化、②反強磁性体と電磁波の複合物理解析法の開発、を中心に検討を行った。これらのテーマに関する研究実績の概要は以下の通りである。 ①磁化の運動と電磁波の相互作用を解析する複合物理計算の高速化:電磁波の支配方程式であるMaxwell方程式と、磁化の歳差運動に対する支配方程式であるLLG方程式を時空間同時に連生し、電磁波と磁化の相互作用を組み込んで計算する複合物理解析法を開発した。磁化の歳差運動により生じる電磁波の波長に比べ、磁性体の実サイズは極微小である。そのため、磁性体の詳細なモデリングに極微小な空間離散間隔を用いた場合、電磁波の解析にはサンプリング間隔が細かくなりすぎる問題が生じ、計算負荷は増大する。これを解決するために、磁化の運動解析に用いる空間離散間隔を段階的に変化させ、電磁波の解析では相対的に空間離散間隔を大きくすることが可能な、マルチスケーリングモデルを提案した。計算負荷が空間離散間隔の比率で決まる本手法を用いることで、ナノサイズの磁性体薄膜と膜内の磁化により生じる電磁波の共振現象の解析が可能となった。 ②反強磁性体と電磁波の複合物理解析法の開発:反強磁性体の解析を行うため、離散化された区間にて、2つの異なる方向を向く磁化の運動を解析する方法を開発している。現在は2つの磁化間の相互作用を有効磁界に組み込み、連立して解くための定式化及び、計算コードのプロトタイプを作成し、その検証を行っている。検証終了後、①で提案したマルチスケーリングモデルを用いる磁化と電磁波の複合物理解析に組み込む予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2023年度においては、以下の得られた研究成果と取り組みにより、本研究はやや遅れていると判断する。 ①反強磁性体と電磁波の複合物理解析法の開発:当初の研究計画通り、反強磁性体の磁化ダイナミクスの効果を電磁波の解析に組み込んだ複合物理解析法の開発に取り組んだ。計画では電磁波との複合物理解析を達成する見込みであったが、反強磁性体の磁化のダイナミクスを解析する方法の検討までとなっている。 ②複合物理解析によるスピンーTHz波変換の解明:項目①で開発した方法を用いて、反強磁性体中のスピンーTHz変換について検討する予定であったが、項目①の検討が不十分であることから、具体的な検討が行えていない。一方、複合物理解析においては、計算負荷が増大し、検討項目②や今後のTHz発信器の設計など具体的なアプリケーション開発が十分に行えない可能性があった。このため、喫緊の課題として計算負荷の低減について検討を行った。この結果、マルチスケーリングモデルを用いた複合物理解析における計算負荷の低減が可能な方法について、十分な検討を行い、成果をまとめることができた。 これらより本研究課題のペースとなる項目①が十分な目標を達成できていないため、項目②も検討が遅れている項目となり、項目①の発展の遅れと合わせ、総合的に現在までの達成度はやや遅れていると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進方策として、次年度中に反強磁性体の磁化ダイナミクスと電磁波の相互作用を解析する方法を確立し、以下の研究項目・計画に従い研究を遂行する。 ①反強磁性体と電磁波の複合物理解析法の開発:反強磁性体中の磁化ダイナミクスのシミュレーション法について信頼性を検証し、2つの異なる方向を向く磁化の歳差運動解析を行う。ここでは磁化ダイナミクスの支配方程式として、Spin-Transfer Torqueの効果を考慮したLLG-Slonczewski方程式に基づくシミュレーション法を開発する。計算妥当性の評価として、反強磁性体に対するスピン注入により、磁化の歳差運動がTHz帯で発振する結果が示されている既存文献との比較検討を行う。反強磁性体の磁化ダイナミクスシミュレーション方法を確立した後、電磁界の時間発展計算手法との連成を検討する。電磁界解析には、時間領域のシミュレーション法であるFinite-Difference Time-Domainを使用する。ここでは、これまで研究代表者らが確立した強磁性体中の磁化ダイナミクスと電磁波の複合物理解析法の知見を活用する。計算負荷が増大する場合には、磁化ダイナミクスと電磁波の計算モデル作成に用いる空間離散間隔を変更するマルチスケールモデリングの適応を検討し、具体的なアプリケーション検討に適用可能なシミュレーション方法を開発する。 ②複合物理解析によるスピン-THz波変換の解明:項目①の進捗と合わせて、反強磁性体中のスピンに起因するTHz波帯の電磁波をシミュレーションから評価する。時間領域のシミュレーションを行うため、THz波の生成過程について十分な検討を行う。
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Causes of Carryover |
本年度に開発が完了する予定であった、反強磁性体と電磁波の複合物理解析法の開発が完了していないため、2023年度に計上していたワークステーションの調達を次年度以降に見送ったため、物品費に差異が生じている。2024年度は複合物理解析法の開発を完了し、ワークステーションを購入する予定である。
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