2023 Fiscal Year Research-status Report
Development of a realism scale of visual information in the virtual environment by the VR-HMD
Project/Area Number |
23K04140
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
古賀 靖子 九州大学, 人間環境学研究院, 准教授 (60225399)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | VR / 視覚情報 / 現実感 / ヘッドマウントディスプレイ / 解像度 / PPD / 視環境 / 設計 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、建築光環境の研究や設計における人工現実(VR)技術の応用可能性を明らかにするために、VRヘッドマウントディスプレイ(VR-HMD)による人工現実環境の視覚情報の現実感尺度を開発するものである。 VR-HMDによる人工現実環境は、VR-HMDと呈示画像の性能から評価できる。本研究では、初めにVR-HMDの主要機種の性能比較を行った。現実感に影響するVR-HMDの性能は、視野、解像度、リフレッシュレートとされる。視野は、実際にはVR-HMDのレンズと使用者の目、および瞳孔間の距離によって異なるが、一般向けの独立型主要機種の視野は有効視野をカバーし、概ね満足できることを確認した。リフレッシュレートも主要機種では90Hzまたは120Hzで、建築空間の評価には問題ないことを確認した。解像度はPPI(pixel per inch)やPPD(pixel per degree)という単位で表されるが、VR-HMDでは見かけの解像度を表すPPDが重要である。PPDは人間の視力に置き換えることができ、60PPDは視力1.0に相当する。主要機種のPPDは20から25程度(視力0.3から0.4相当)で、人工現実環境は現実環境よりぼやけて見えることが課題であると判った。VR-HMDの呈示画像の性能も、第一に解像度で評価される。高いPPDを持つVR-HMDには、呈示画像の解像度も高くなければ意味がない。本研究では、現実感の要素として視覚的硬軟感に着目し、呈示画像とVR-HMDの異なる解像度の条件について、視覚的硬軟感を定量評価した。そのために、視覚的硬軟感の定量評価方法を新たに考案した。呈示画像の解像度は、動画における陰影の変化の見え方に影響し、視覚的硬軟感に影響するが、現在のVR-HMDのPPDでは、視界の鮮明度に大きな違いが出ず、視覚的硬軟感に影響しないことが判った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では、具体的な照明空間の3Dモデルを作成して、明るさと色の観点から現実感評価を行うことを考えていた。しかし、文献調査を行うと共に、人工現実環境における建築空間の再現性の評価方法について熟考を重ねる中で、解像度に関して材質感の再現性に着目するに至った。材質感は、本来、触覚の経験に基づいて捉えられるものであるが、現実の建築空間の評価においては、視覚的に捉えられることが多い。したがって、材質感のリアルな再現は、人工現実環境の現実感評価において重要な要素であると考えた。材質感を構成する粗滑感、凹凸感、乾湿感、温冷感、硬軟感と、画像表現の要素との対応を考えた結果、硬軟感に対応する視覚的表現要素が不明であった。よって、VR-HMDおよび呈示画像の解像度と視覚的硬軟感との関係を明らかにすることとした。現実感尺度はまだ提案できていないが、視覚的硬軟感の評価実験にあたり、定性的評価ではなく、材料の硬さ試験の値に対応させて、視覚的硬軟感を定量的に評価する方法を新たに考案した。また、視覚的硬軟感の評価実験より、人工現実環境の現実感の一要因であるプレゼンスに対して、解像度が重要であることを確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
一般向けVR-HMDによる人工現実環境の現実感について、VR-HMDの見かけの解像度PPDが重要であることを確認した。VR-HMDの構造上、PPDと視野はトレードオフの関係にあり、なるべく広い視野が優先されている現状で、PPDが大きく改善される見込みはないと判断する。また異なる機種間で、視知覚に関してPPDに大きな違いはない。ただし、ぼやけて見える状態は、視力の弱い人には、裸眼で現実環境を見ることと同じで、必ずしも現実感と直接関係しない。このことは、視覚的硬軟感の評価結果から示唆された。したがって次は、呈示画像の解像度以外の性能と現実感との関係を明らかにする。デフォーメーション(変形)による画像表現の違い、およびレンダリングによる精密度の違いについて現実感を評価する。 国際エネルギー機関(IEA)では、2つの研究開発プログラム「太陽熱利用冷暖房プログラム(SHC)」と「建物とコミュニティにおけるエネルギープログラム(EBC)」の合同研究課題として「低炭素で快適性の高い統合照明」を設けている。この中で、照明設計に用いるVR技術の可能性と精度などを明らかにしようとする研究がある。2024年4月に米国で定例会議が開催され、そこでVR利用に関する研究成果を発表すると共に、海外の他の研究者による研究成果と合わせて研究討議を行った。建築環境分野・照明工学分野だけでなく、情報科学分野における研究を参考にして、現実感の定量評価方法を考案する。
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