2023 Fiscal Year Research-status Report
海村(海辺の集落)の多様性と文化交流による景観形成の検証
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23K04210
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
小林 久高 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 准教授 (80575275)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Keywords | 民家 / 構法 / 地域特性 / 海村 |
Outline of Annual Research Achievements |
島国である日本においては海岸線に沿って多くの海村(海辺の集落)が形成され、様々な生業に対応した多彩な集落景観を形成してきた。また、海村は国内外の文化交流の窓口として相互に影響を与えあう地域でもあった。日本人の生活史の中で大きな割合を占めるそれらの海村については、民家研究等の中心であった農村や都市と比較して研究の蓄積が少なく、その形式や変遷を相対的に位置付けるには至っていない。 そこで本研究では、中国地方を中心とする海村を対象とし、各集落の立地や構成、建築物の建築構法の傾向を生業等の社会背景の視点から整理し分析していくことを目的とする。北前船に対応した港町や漁村の面影を多く残す中国地方を主な調査対象地とし、詳細な現地調査を実施し、海村の多様性と文化的な類似性について集落・建築の資料により具体的に明らかにしていく。 現在までに、島根県の島根半島の海村に関する悉皆調査を実施し、集落形式の類型化を試みている。また、古い集落構成や伝統的建築物を多く残す集落である鷺浦等の集落においては、具体的な集落構成に関する分析も行った。島根半島の海村における付属屋の建設事例として、灘小屋と呼ばれる浜辺の付属屋を多数建設している島根半島の小波集落を対象とした調査を実施した。灘小屋の実測調査を行い、地域の生業の変化に対応した利用法の変遷について確認した。本研究においてはそれらの研究成果を踏まえて、中国地方と周辺地域における海村の現状を確認していく作業を通して、その特性を明らかにしていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
海村調査の主な対象地として隠岐諸島の海士町を選定し、海村の付属屋である舟小屋の立地と建築構法に関する詳細な現地調査を行った。宇受賀集落の海浜に多数建設されている舟小屋に関する聞き取り調査と実測調査を実施し、その特性を確認した。併せて、海士町役場等の協力を得て実際に1棟の舟小屋を建設し、その作業工程を確認することで伝統的な付属屋の建設手法に関する詳細な記録を作成した。地域住民や行政、島留学生等の多様な人々が参加するプロジェクトとして実施することができ、地域活性化の一助とすることができた。また、主屋の分布と建築構法に関する調査も実施した。 海村における町屋形式の民家に関して、徳島県東部の宍喰、鞆浦集落に関する現地調査を実施し、ファサードの開口部の特徴であるミセ造り(ばったり床几)の現存状況を確認し、地域ごとの構法の相違に関する記録を作成した。関連して周辺集落の巡検調査を行い、今後の調査地に関する検討を行った。 海村の巡検として、玉島、温泉津、沖泊、鞆ヶ浦、防府市宮市、小野田市木戸・刈屋、門司への現地調査を実施し、海村の集落構成と建築構法について確認すると同時に、今後の調査対象地の検討を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの調査対象地における作業を継続して実施することと合わせて、新たな対象地における活動を開始する。徳島県の鞆浦においては、ミセ造りの構法の詳細を確認していく。 島根県におけるたたら製鉄の積出港として栄えた安来において、集落調査に併せて、特徴的な料亭建築に関する調査を実施する。大広間を持つ巨大な木造建築を建設しており、かつての繁栄の名残をとどめる手の込んだ設えが工夫されており、県内に類例のない質の高い建築が残されていることから、その詳細な記録を作成することで文化的な価値を確認し、今後の利活用へとつなげていきたい。 また、安来は民芸運動で有名な河井寛次郎の出身地である。寛次郎の親族は大工であり、安来の複数の民家を建設したといわれている。また、京都の河井寛次郎記念館の建設にも関わったとされており、民芸運動の影響を受けた建築を手掛けている可能性がある。安来の民家の空間構成等を確認することで、民芸的要素を持つ建築物のルーツの検討を行いたい。 山口県下関新地には、戦災を免れた花街の名残が見られる地域が残されている。かつての港町には花街が付きものであったが、これまで地方の花街に関する調査はあまり実施されてこなかった。集落構成と建築物の特性に関する現地調査に着手していきたい。 さらに未見の海村を対象とした巡検調査を実施し、海村の形式に関する知見を深めると同時に、今後の調査につなげていく。
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Causes of Carryover |
主な調査対象地とした海士町の舟小屋調査について、海士町より資金的補助があったことから、交通費・宿泊費等の余裕が生じ、次年度へと繰り越すこととなった。 繰り越し分は次年度の交通費・宿泊費として使用していく。
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