2023 Fiscal Year Research-status Report
フィンランド・ヘルシンキ港からみた都市モデルの研究
Project/Area Number |
23K04217
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
渡邊 大志 早稲田大学, 理工学術院, 准教授 (60632114)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ヘルシンキ港 / 港湾 / 都市史 / 開放系港湾 / 物流港 / 人流港 / 港湾倉庫 / 都市モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、これまでの研究蓄積である港湾からみた都市モデルの一般化を目指し、一港湾に全ての港湾機能を閉じない「開放系港湾」に焦点を絞って遂行するものである。そのための研究期間を3年とし、①「開放系港湾」における港湾倉庫群の配布構造、②それらが属する海洋航路の海域から導かれる都市モデルの2点を明らかにすることとした。 その一年目に当たる令和5年度は、研究計画において資料収集・検証期に当たる。すなわち、特筆すべき開放系港湾として挙げたヘルシンキ港の港湾史に関わる一次資料を現地の国立図書館及びヘルシンキ市港湾局などにおいて収集し、物流港時代の港勢と現状を比較して現地での検証を実施した。一次資料については、現地への研究出張を実施し、国立図書館にて公開可能な資料請求を行い、既に刊行された港湾史、社史や書籍などの歴史的資料を収集した。特に、視覚的資料として比較可能な各時代の港湾計画地図を発見・収集できたことは大きい。それによって、実際に実現しなかった港湾計画や実施の段階で途中変更された際の更新計画の痕跡を発見することが可能となる。 また、現地にて収集した膨大な資料を読み解き、時代区分と資料の性質によって類型化して整理した。その目的は、旧態依然とした伝統的な物流港を次代の人流ハブ港に押し上げた画期を特定することにある。これは、物流埠頭の集約と旅客船埠頭の新設・再整備経てバルト海経済域全体の人流ハブ港に至る過程を臨海部の港湾計画・都市計画等と併せて俯瞰することで、今後港湾倉庫の類型や倉庫立地の変遷などをさらに調査し、「開放系港湾」における海のインフラによる都市モデルを示すことにつながっていくための重要な下地作業である。 加えて、これらの作業から並行して導かれる「開放系港湾」の素地を示すため、下半期には日本建築学会の梗概集を投稿し、同大会(京都大学)にて研究発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究遂行状況としては、概ね順調に進展しているものと判断する。 理由は、当初の研究計画書にあるように、令和5年度(1年目)の上半期は専ら一次資料の収集を行うとした内容をほぼ満たすことができたためである。すなわち、埠頭の運営方式と運営主体、その法的根拠などのメカニズムを確認することを目的として、行政管理者(フィンランド港湾局、ヘルシンキ市港湾局)、港湾管理者(ヘルシンキ港港湾局)、船会社(海運業社、旅客船舶業社)、港運業社、港湾陸運業社、倉庫業社などに保管された公文書、行政資料(議会や委員会の記録など)、公開可能な社内資料、既に刊行された港湾史、社史や書籍などの歴史的資料などについて、現地の国立図書館などの各地にて収集することができた。 特に、港湾管理者の資料から実際に実現しなかった港湾計画や実施の段階で途中変更された際の更新計画の痕跡を発見し、下半期では現況把握と資料収集を継続しつつ、旧態依然とした伝統的な物流港を次代の人流ハブ港に押し上げた画期を特定するための作業を行った。画期は単純な時期だけでなく、そこに導かれるまでの過程を追うことが重要であるため、膨大な資料の詳細を読み込み、画期を特定する必要がある。そのための類型的な整理に進行しつつあり、2年目の研究計画の実施のための下地づくりを行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
令和6年度(2年目)は、研究計画においては資料分析・類型化期と位置付けている。1年目で行った現地での資料収集とそれら資料の類型化について、研究における論理構造を見出しながら検証を実施していく。上半期では、1年目で発見した画期を都市史の視点から分析して読み直す。それにより、土地の歴史と結びつくことで港湾からヘルシンキ の都市建設が行われた側面を明らかにする。また、倉庫業や海運業から旅客業への改革と転身が周辺の都市形成に関わった部分を炙り出し、令和6年度(2年目)の下半期では、新しい技術の到来が倉庫の性質と倉庫群が立地する埠頭群そのものの都市的な意味合いを変えた場合を抽出することで、因果関係が認められる陸上インフラを特定しながら、港が都市にもたらした効果を明らかにする予定である。そのため、令和5年度(1年目)に引き続いて、複数回に渡る現地調査を予定している。特に、ヘルシンキ港はその緯度の高さから夏期と冬季で全く異なる様相を呈する港であり、特に人流港の機能を果たす上で海水の凍結など、その季節間の差は一年を通じた港勢の変化に大きな影響を及ぼす因子となっている。 これらの調査により、①輸出入産品をストックする港湾倉庫の類型と倉庫立地の変遷、②港湾労働者が果たす機能の変化、③バルト海経済域の摩擦ない人流を実現する海と陸の境界線の設計、④距離の離れた港湾機能を互いに結ぶための制度設計を含めた海洋インフラの建設、の四点から「開放系港湾」における海のインフラによる都市モデルを示すための準備を行う。 このことは、本研究で掲げている<2>開放系・閉鎖系双方に有効な「海からみた都市モデル」へと一般化するという、二段階目の問いに辿りつくための重要なステップである。
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Causes of Carryover |
令和6年度(1年目)は現地で収集した一次資料の精査に時間を割いたため、現地への渡航回数を抑えた。そのため、次年度使用額が生じたが、これらは3年間を通じたバランスの良い研究出張の渡航計画を組むことで、最も研究の成果に寄与する方法で研究計画の予定通りに使用することを考えている。
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Research Products
(2 results)