2023 Fiscal Year Research-status Report
モーション認識によるライフジャケット着用検知と小型船舶安全管理見守りシステム
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23K04317
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Research Institution | Yuge National College of Maritime Technology |
Principal Investigator |
田房 友典 弓削商船高等専門学校, 情報工学科, 教授 (20321507)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ライフジャケット / モーション検知 / 船舶安全管理 / 見守りシステム / Madgwickフィルタ |
Outline of Annual Research Achievements |
国土交通省は、平成30年からすべての小型船舶の乗船者にライフジャケットの着用を義務化した。令和4年知床観光船事故では、ライフジャケットを着用していたにも関わらず、未だ8名が行方不明である。本申請では、ライフジャケット着用時にしかできない人の一連の動きを認識し、着用状態を一元管理できるシステムと、人の状態の異常や船舶の位置情報を確認、周辺船舶へ救難信号を送信できる安全管理・見守りシステムを開発する。 ライフジャケットに小型マイコンを搭載し着用と人の状態を監視し、船舶上(現場)での安全管理をシステムで強制的に行う。船舶の位置情報は、LPWAネットワークを介してクラウドへ転送されており、陸上側から監視することができる。第3者による見守りは、予期せぬ事故やヒューマンエラーを防止するために重要な役割を果たし、安全性の確保、事故防止、事故発生時の早期対応や捜索支援に大きく貢献できる。 研究目的の1つ目は、ライフジャケットを着用している状態の検知である。通常、ワンタッチバックルベルトにセンサを取り付けて、バックルの連結状態によって識別できるが、本手法では着衣していなくても識別可能となる。本申請は、必ずライフジャケットを着衣している状態を検出するために、着衣状態でしかできない一連の動き(複数モーション)を認識することで着用検知を行う。2つ目は、ライフジャケット着用検知後、船舶の位置情報の発信と異常状態の検出、およびデータをLPWAネットワークによって転送する管理システムの構築である。令和5年度から令和7年度にかけて、次の3つの研究計画で実施する。①モーション検知によるライフジャケット着用検知、②船舶位置情報の転送とライフジャケットの異常検知システム(船舶管理端末)、③LPWAネットワークによる見守りシステム
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和5年度の研究計画は、モーション検知によるライフジャケット着用検知である。ライフジャケットを着用した状態で、一連の動作を行う。その時の3次元加速度センサの波形をデータ分析し、姿勢推定を行う計画であるが、船上であると重力加速度以外の加速度が付加される。また、解析のために積分を続けると誤差がより蓄積されることが予測される。センサ値に対して、正確な姿勢推定を行うために、実験の結果、Madgwickフィルタを適用した。 モーション検知の方法は、ユーザが直立している状態を基本状態として、上半身を前、後ろ、左、右のいずれかに傾ける動作をモーションの単位として扱う。ここで、傾ける動作の検出は、ロール角とピッチ角のそれぞれについてピークを検出する。他の動作との誤検知を避けるために、傾ける動作が検出された場合、その最大角がしきい値を超えないものに関しては無視する。この検出を一定時間毎に行い、単位モーション列を得る。ユーザが行うモーションは、各動作を分解し単位モーション列であるとみなす。予め設定したモーション列と検出された単位モーション列の比較によって、モーション判別を行う。 モーションの各方向を検知する際の動きは,前後であればピッチ角のみ、左右ならロール角のみをしきい値として判断していたが、ロール角とピッチ角を相互に適用することによって、精度の高いモーション判別ができることが実験的に証明できた。 今年度と次年度の研究計画である船舶位置情報の転送とライフジャケットの異常検知システム(船舶管理端末)の構築にも研究作業は進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度は、3つの研究計画の内2番目である、船舶位置情報の転送とライフジャケットの異常検知システム(船舶管理端末)の構築に取り組む。 離島などでは高齢化率が高く、レジャーとして小型船舶を利用している高齢者も多く、そのほとんどが一人で乗船している。高齢者の単独による乗船は、海難事故だけではなく心筋梗塞など突然の病を起こすリスクも高い。また、造船所や大型船では、ライフジャケットを付けた作業員の安全状態を監視することができる。万が一、海上に投げ出されるような事故が発生した場合は、異常状態を検出し事故の早期発見と対応に繋げることができる。定常時には、位置情報をクラウドで常時監視でき、緊急通知も可能な船舶管理端末を開発する。船舶管理端末は、ライフジャケットの着用状態を常に監視し、陸上の基地局とLPWAネットワークを介して通信する。船長や現場責任者は、船舶管理端末によって異常状態を検知することができる。研究の位置付けは、モーション検知と同様に船の揺れや波浪による外乱(ノイズ)を抑え、精度向上を図ることである。 異常状態とは、全く動かない状態、転落などによって海上へ投げ出された場合を想定する。船舶管理端末とライフジャケットとの通信が切れた場合、異常と判断されるため、ライフジャケット側のバッテリー持続時間が24時間以上になるようソフトウェア的に検証する。船舶管理端末は、ライフジャケットから送信される情報を元に異常状態の検出を行うために、海上実験によって認識率を90%まで向上させる。基地局を構成し、複数の船舶管理端末から位置情報(GPS)を、LPWA網を介して定期的にクラウドへと送信できることを確認する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、研究の基盤となる理論の構築やシステム設計などに主な時間を費やしたためである。そのため物品費や旅費の支出が計画よりも少なくなっている。また、協力研究者である専攻科生の活躍も大きく、人件費は活用していない。 令和6年度は、専攻科生が卒業し研究を遂行できる人数が減少するため、謝金などを活用して、海上での研究実験を進める予定である。
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