2023 Fiscal Year Research-status Report
マンガン酸化物ナノ材料を基盤とする光熱触媒科学の開拓
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23K04545
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
副島 哲朗 近畿大学, 理工学部, 准教授 (40512695)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | マンガン酸化物 / ナノワイヤー / ルチル型結晶 / フォトサーマル触媒 |
Outline of Annual Research Achievements |
ルチル型酸化チタン粒子の表面に酸化水酸化マンガンナノワイヤーを成長させる合成条件の最適化を検討した。その結果,不定形の酸化チタン粒子の表面に,安定して成長させることに成功した。また,同じルチル型である酸化スズなどの表面にも成長できることを明らかにした。2-ナフトールの酸化反応を用いて,二酸化マンガンナノワイヤー担持酸化チタン粒子の反応性を評価したところ,酸化分解活性を有していることがわかった。さらに,可視光以上の光を照射して同様の反応を行うと,酸化分解速度が著しく向上し,この複合粒子がフォトサーマル触媒として機能することが示唆された。そこで,2-ナフトール溶液の温度を変化させて暗所で同様の反応を行ったところ,光照射時と同様に酸化分解反応の速度が向上した。また,担体である酸化チタンのみで同様の反応を行ったところ,光照射の有無で反応速度に変化はなかった。以上の結果から,複合粒子はフォトサーマル触媒として機能することが明らかとなった。複合粒子の電子顕微鏡観察の結果,酸化水酸化マンガンはルチル型酸化チタン粒子の特定の面から成長していることが明らかとなった。そこで,この結晶面に関する特異な成長について明らかにする目的で,単結晶性のルチル型酸化チタンナノロッドを基板上に成長させ,この薄膜に対して酸化水酸化マンガンを成長させた。その結果,非常に興味深いことに,酸化チタンナノロッドの先端から,ナノロッドの成長と同じ方向に酸化水酸化マンガンが成長することが明らかとなった。また,一部,ナノロッドの側面から垂直に成長するナノロッドも見られたことから,酸化水酸化マンガンは低温での液相条件にもかかわらず,エピタキシャル成長していることが示唆された。最後に,さらなるフォトサーマル活性の向上を期待して実験を行ったところ,マリモ状酸化チタン粒子からマンガン酸化物ナノワイヤーを成長させることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度においては,まずは,市販のルチル型酸化チタン粒子の表面に酸化水酸化マンガンナノワイヤーを成長させる合成条件の最適化を行った。基板系の結果において,酸化水酸化マンガンナノワイヤーの成長と同時に不定形の四酸化三マンガンが成長する可能性が示唆されていたが,特に成長温度の最適化により酸化チタンコア-酸化水酸化マンガンナノワイヤー粒子を再現性良く合成できるようになった。また,コア粒子について,同じルチル型となる金属酸化物を用いることで,ルチル型の結晶構造がナノワイヤー形状としての形成に必要であることがわかった。さらに,2-ナフトールの酸化反応において,酸化水酸化マンガンを焼成することで得られる二酸化マンガンナノワイヤーが触媒活性を有することを見いだすとともに,その反応速度が光照射により増大し,この結果は本研究の目的としているフォトサーマル効果によるものであることを明らかにした。さらに高活性な触媒創製のため,コア粒子を酸化チタンの放射状メソ結晶(ウニ状結晶)とすること,より高密度に酸化水酸化マンガンナノワイヤーが成長した粒子を合成することに成功した。ただ,この粒子については,四酸化三マンガンの不定形粒子も同時に成長することがわかっている。 ルチル型粒子からの酸化水酸化マンガンの成長メカニズムをさらに明らかにする目的で,単結晶生ルチルナノロッドアレイに酸化水酸化マンガンナノワイヤーを成長させたところ,明らかに成長に関する結晶異方性が見られた。水相で,なおかつ70~90℃という低温での合成でこのようなエピタキシャル的な成長モードが見られたことは非常に興味深く,基礎科学的にも非常に興味深い結果が得られている。 当初の目標としていた貴金属担持酸化チタン粒子への酸化水酸化マンガンナノワイヤーの成長であるが,貴金属ナノ粒子が邪魔をするのか,高密度での成長が実現できていない。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは,酸化水酸化マンガンナノワイヤーの成長メカニズムをさらに明らかにすることを目的とする。すなわち,高分解能透過型電子顕微鏡観察とエネルギー分散型X線分光法を駆使して,ルチル型結晶のどの結晶面からどのようにエピタキシャル成長しているのかを明らかにする。コアの粒子について,過去の研究においてルチル型酸化チタンウニ状粒子の合成時に核粒子として利用し,その成長メカニズムを明らかにする際に効果的であった,超微粒子のルチル型酸化チタンと,薄膜系において得られるルチル型酸化チタンナノロッドを用いることを検討する。さらに,当初の目的のとおり,マンガン以外の遷移金属を前駆体溶液に添加して同様の合成を行い,マンガンと別の金属からなる複合酸化物ナノワイヤーの成長可能性についても検討する。 また,ウニ状ルチル型酸化チタンについて,酸化水酸化マンガンナノワイヤーのみが成長する合成条件(合成時の温度,濃度,コアとなるウニ状ルチル型酸化チタンの種類)を変化させて,最適条件を探索する。得られた粒子について,2-ナフトールの反応などをモデル反応として用いて,フォトサーマル触媒としての活性評価を行う。 貴金属ナノ粒子担持酸化チタンへの酸化水酸化マンガンナノワイヤーの成長については,酸化チタン表面への担持貴金属ナノ粒子の成長量を制御することによって可能かどうかを検証する。また,析出沈殿法での金ナノ粒子の担持の場合は,担持用金イオン含有水溶液のpHを変化させることによって,酸化チタンにのみ選択的に金ナノ粒子を担持させることができる可能性があるため,これについても検討する。また,酸化水酸化マンガンは有意な光触媒能を示さない可能性もあるため,酸化チタンの光触媒能を利用して選択的な貴金属ナノ粒子の担持が可能かどうかについても検討する。
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Causes of Carryover |
当初の申請内容では「高感度ガスクロマトグラフ」を購入する予定であったが,交付内定額の直接経費がガスクロマトグラフの金額より下回ったため,購入内容についての変更が余儀なくされた。そこで,本研究内容の柱となるフォトサーマル活性の評価に必要な,クセノンランプ,保温保冷ビーカー,ダブルジャケット型反応容器,スポット型LED光源,低温恒温水槽などを購入して触媒活性の評価に用いた。また,その他,構造解析に必要なTEMメッシュ,溶媒の保管に必要な物品など,当該研究を進める上で必須の物品を購入した。さらに,本研究費の成果の論文が学術雑誌のBack cover imageに選出されたため,その掲載料として支出した。 一方,金ナノ粒子の担持に関する実験の進捗が思わしくなく,令和6年度において力強く研究を展開するため,次年度使用額として充てることにした。また,本研究を申請後に,同様の内容となるフォトサーマル触媒関連で別の研究にも着手し一定の成果が出た。その結果,令和6年度から追加で可視光光源や低温恒温水槽が必要であるため,それらの支出に充てる予定としている。令和6年度の研究計画として,透過型電子顕微鏡を用いた構造解析を進めるため,より高分解能撮影が安定して行えるTEMメッシュの購入も予定している。
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