2023 Fiscal Year Research-status Report
厳密inverse Kohn-Sham法を使った時間依存DFT理論の構築と数値計算による原理検証
Project/Area Number |
23K04676
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
加藤 毅 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (10321986)
|
Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | 逆Kohn-Sham積分方程式 / 実時間密度汎関数計算 / 厳密密度汎関数化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は,私が提案した逆Kohn-Sham積分方程式を繰り返し算法によって解く場合の標準的な解法の研究を行った.既報“Kohn-Sham potentials by an inverse Kohn-Sham equation and accuracy assessment by virial theorem”, T. Kato and S. Saito,J. Chin. Chem. Soc.70 (2023) 554-569 で開発した手法は一般的ではあったが,標準的ではなかったためである.逆Kohn-Sham積分方程式は第二種のフレドホルム積分方程式の形に纏め上げることができる.このことから数学分野での研究成果を援用することで,占有Kohn-Sham軌道からなるgeminalを構築すると,厳密なKohn-Shamポテンシャル関数を求めるための標準的な繰り返し算法が構築できることを見出した.さらには,この方法に従えば,積分方程式の主要部分を代数方程式に置き換えられて数値計算が簡単化される.この成果は第25回理論化学討論会の場で発表した. また,時間依存の密度汎関数計算の初期値として必要となる,基底電子状態における全電子エネルギーの厳密密度汎関数化にも取り組んだ.この問題は,一般の密度汎関数理論研究でも未解決の問題であり,その解決には意義があり,科学的に大変重要な問題である.これまでに,厳密な密度汎関数化の定式化を終えている.現在までに全電子エネルギー,あるいは,同じことではあるが,交換相関エネルギーの厳密な表式として「断熱結合公式」が提案されているが,その公式を評価するためには多体波動関数の多数回の計算が必要であり,密度汎関数法を利用する利点が失われる.本研究で見出した密度汎関数公式には多体波動関数の情報が含まれておらず,密度汎関数理論と合目的であるところに意味がある.現在は既報で使ったモデル系を使って,新たに導いた関係式の計算手法,精度を詳しく吟味している.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は,厳密な実時間密度汎関数法の実現方法の確立である.そのためには,主に(1)全電子エネルギーの密度汎関数化(2)複素Kohn-Shamを使った場合の逆Kohn-Sham積分方程式を効率よく解く解法の確立が必要とされる.それらが確立された場合の計算アルゴリズム「対をなすCrank-Nicolson法」は既報で提示済みである. 今年度の成果,「厳密なKohn-Shamポテンシャル関数を求めるための標準的な繰り返し算法の構築」は上記項目(2)を達成するための基礎的な研究となる.また,現在,検討の対象としている全電子エネルギーの厳密密度を使った密度汎関数化は項目(1)そのものである.この課題は,一般の密度汎関数理論研究でも未解決の課題であり,その解決には意義があり,科学的に大変重要な課題である.これまでに,厳密な密度汎関数化の定式化を終えている.全電子エネルギー,あるいは,同じことではあるが,交換相関エネルギーの厳密な表式として「断熱結合公式」が知られているが,その公式を評価するためには多体波動関数の多数回の計算が必要であり,密度汎関数法を利用する利点が失われる.本研究で見出した密度汎関数公式には多体波動関数の情報が含まれておらず,密度汎関数理論と合目的である.
|
Strategy for Future Research Activity |
全電子エネルギーの厳密密度汎関数化の定式化に関して,モデル系を使った数値的な吟味を十分に行い,本研究で提案しようとする厳密な定式化が具体的な問題に適用できるのかを判断する.この厳密密度汎関数化が図られた場合には,既報でそのアイデアを提案している,実時間密度汎関数法の「対をなすCrank-Nicolson法」による実現を目指す.計算の精度を調べるために波動関数理論から厳密な解が計算できるモデル系を使って,本研究で提案する時間発展手法の計算精度の比較研究を行う. もし,全電子エネルギーの厳密密度汎関数化が数値的には満足なものでないと判断される場合には,波動関数理論を使って実時間密度汎関数法の初期値を準備する.そのようにしても「対をなすCrank-Nicolson法」の実現のために解決しなければならない課題は変更を受けない.
|
Causes of Carryover |
昨年度,参加した国際会議が東京,国内会議が横浜で開催されたため,旅費等を使用しなかった. 今年度招待を受けている国際会議(The 8th Japan-Czech-Slovakia (JCS) International Symposium on Theoretical Chemistry)は北海道で行われる予定であるが,その他,研究の進捗に合わせて,海外で行われる国際会議へ出席して,あるいは,海外の研究者を訪問して,情報の収集・交換を行い,本研究目的の達成に役立てる.
|