2023 Fiscal Year Research-status Report
Stablization of labile metal complexes in the clay interlayer space and appliaction to chiral inorganic materials
Project/Area Number |
23K04783
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
吉田 純 日本大学, 文理学部, 准教授 (60585800)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | キラリティー / 金属錯体 / 置換活性 / アップコンバージョン / 粘土鉱物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,キラル光学特性を示す金属錯体を粘土層間に固定化し,キラル無機材料としての開拓を目指すことを最終目標としている。本年度は,C2軸方向に伸長したdppz(dppz = dipyrido[3,2-a:2’,3’-c]phenazine)を配位子に持つ,[Ru(dppz)3]Cl2の合成・光学分割を行い,それぞれについて,粘土鉱物の1つであるモンモリロナイト(以下,Na-Mt)に対する吸着挙動を調査した。また,溶液中における[Ru(dppz)3]Cl2の光学特性評価もあわせて行った。 その結果,吸着挙動においてはラセミ体と光学活性体では,大きな違いは示さないことが確認できた。この結果を踏まえ,今後は置換活性な錯体との混合系評価を行う予定である。一方,[Ru(dppz)3]Cl2の光学特性評価においては,溶液中において比較的高い発光特性を示すことがわかった。そこで,[Ru(dppz)3]Cl2をドナー,9,10-ジフェニルアントラセン(DPA)をアクセプターと用い,溶液中において,三重項-三重項消滅(TTA)に基づくフォトンアップコンバージョン(以下UC)が発現するかを検討した。その結果,確かにUCが進行することを確認した。今後は,粘土層間中でのフォトンアップコンバージョンについても評価を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1,10-phenanthroline(以下phen)を原料としてdppzを二段階,収率65%で調製したのち,dppzと塩化ルテニウムを反応させ[Ru(dppz)3]Cl2錯体を収率11%で合成した。その後,Δ体とΛ体への光学分割をキラルカラムを用いたHPLCによって行い,その絶対立体配置を円二色性(CD)測定より確認した。次に,[Ru(dppz)3]Cl2錯体の光学活性体とラセミ体を,それぞれ濃度を変えながらNa-Mt分散液に滴下し,各濃度での吸着量を調査した。吸着等温線を作成したところ,光学活性体では最大吸着量がCECに留まることが確認できた。一方ラセミ体においてもCECの約120%で吸着量が飽和した。そこで約120%の吸着量のサンプルに対してXRD測定を行ったところ,層間において錯体の単分子層の形成が示唆された。以上の結果より吸着挙動においてはラセミ体と光学活性体では,大きな違いは示さないことが確認できた。 次に,発光性が確認できた[Ru(dppz)3]Cl2錯体をドナーとして用いて,UCの検討を行った。UCは,長波長光(低エネルギー)を短波長光(高エネルギー)に変換する技術であり,近年三重項-三重項消滅(TTA)を利用したTTA-UCが活発に研究されている。TTA-UCではドナーが光を吸収した後, アクセプターへのエネルギー移動が起こり, 励起三重項状態にある2つのアクセプターがTTAを起こすことで, 元の励起光より高い励起状態への遷移が起こる。本研究では,[Ru(dppz)3]Cl2をドナー,9,10-ジフェニルアントラセン(DPA)をアクセプターと用いて,溶液中におけるTTA-UCを検討した。その結果,TTA-UCは発現し,その相対的な発光量子収率は約2.0%と見積もられた。
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Strategy for Future Research Activity |
キラル錯体の吸着挙動としては,ラセミ体と光学活性体では大きな差は見られないことが分かったことから,今後は,置換活性な錯体との混合系評価を行い,ラセミ化の進行が粘土層間で遅延するかどうかを詳細に検証する予定である。一方,当初は想定しなかった,TTA-UCにおけるドナーとしての可能性が[Ru(dppz)3]Cl2に見出された。今後は,粘土層間中でのフォトンアップコンバージョンについて評価を進めるとともに,比較的簡便に合成可能な類似錯体についても,同様のアップコンバージョン評価を進めていく予定である。粘土鉱物の層間において,ドナーとアクセプターを規則配列させることで,UC効率の向上が期待できると考えている。さらに,粘土鉱物の酸素バリア性を利用して,酸素存在下でのUC発現にも挑戦予定である。
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Causes of Carryover |
原子間力顕微鏡を購入するにあたって,円安等の状況から余裕の金額を見積もっていたが,値引き等もあり,予想していたよりも物品費の支出が少なかったことが次年度使用額が生じた理由である。 生じた約6万円の次年度使用額は,2024年度において消耗品費(AFM用の基板代や合成用薬品代として)や実験のための旅費として使用予定である。
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