2023 Fiscal Year Research-status Report
ゲル化によって生じる巨視的なキラル対称性の破れ:新現象の解明と展開
Project/Area Number |
23K04844
|
Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
田代 健太郎 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 高分子・バイオ材料研究センター, 主幹研究員 (40332598)
|
Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | ゲル化 / キラル対称性の破れ / 攪拌 |
Outline of Annual Research Achievements |
複数のアミノ酸誘導体のゲル化において申請で提唱した仮説の実験的検証を行った結果、1)検討されたすべてのケースにおいてラセミ体混合物のゲル化の際にはホモキラル選択的自己集合化が進行し、この現象はキラルな小分子のゲル化において一般則として成立する蓋然性が高い、2)ホモキラル選択的自己集合化が進行しながらも、ゲル化の際に巨視的なキラル対称性の破れが発現する・しない双方のケースが存在する、の二点が明らかとなった。同時にこれらの検討の過程で、ゲル化において巨視的なキラル対称性の破れを発現するための因子として、申請時には想定外であった「溶液の攪拌」の重要性を見出した(攪拌方向によるキラリティーの制御という意味ではなく、ゲル中に濃縮されるエナンチオマーの選択性はランダムである点を誤解を避けるため強調しておく。)。ゲル化のプロセスに攪拌操作を適宜組み込むことにより、静置環境では発現しなかった巨視的なキラル対称性の破れを容易かつ普遍的に生じさせることが可能となり、ゲル化においてはきわめてありふれた現象となり得ることを実証した。以上の成果は、キラル対称性の破れが結晶化においては例外的にしか起こらないというこれまでの経験則と極めて対照的な傾向を示しており、地球上におけるキラル対称性の偏りの起源についての新たな視点を与える(従来提唱されていた結晶化ではなくゲル化を介した偏りという新たなシナリオの提案)とともに、何故ゲル化と結晶化で対照的な傾向を示すのか、という分子集合体形成に関する新たな謎・研究命題を生み出しつつある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度に注力予定であった小分子が形成する物理ゲルの範囲において概ね仮説を実証する実験結果を得ることができた。また、巨視的なキラル対称性の破れを発現する上で重要な基本的因子として、「ゲル化を行う溶液を攪拌する」という研究の開始前には全く想定していなかった知見を見出すに至っており、当初の計画以上に進展していると評価される。
|
Strategy for Future Research Activity |
1年目は低分子物理ゲルにおける巨視的なキラル対称性の破れの発現に焦点を当てたのに対し、2年目は共有結合性ポリマーからなる物理ゲルにおける同様の現象について検討を行う。特に、一年目の取り組みで見出した「攪拌によるキラル対称性の破れの発現の促進」効果が高分子物理ゲルにおいても存在するのか否か、について重点的に調べる。
|
Causes of Carryover |
1000円未満の端数であり、翌年度の使用計画に大きな影響を与えない。
|