2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23K04879
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
儘田 正史 京都大学, 理学研究科, 准教授 (60625854)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 有機EL / OLED / 熱活性化遅延蛍光 / TADF / 逆交換交差 |
Outline of Annual Research Achievements |
熱活性化遅延蛍光(TADF)や有機半導体レーザーといった新技術を実用化するためには、高効率であるだけでなく高い耐久性を示すことが極めて重要であり、有機デバイスの素子劣化のメカニズムを明らかにしながら、具体的な分子構造へとフィードバックすることが求められている。この際に、分子の励起状態やポーラロン状態などがどのように劣化を引き起こすか、また、励起子過程のどの段階が劣化経路に強く結びついているかといった基礎的知見は、今後の分子設計において極めて重要となる。 R5年度の研究において、発光材料の構造や励起状態が安定性に及ぼす影響について研究を実施した。具体的には、複数のドナーが密集したマルチドナー型TADFが高い安定性を示すと期待し、新規化合物を合成するとともに、シングルドナー型TADF分子との比較を行った。分子の励起状態エネルギーやTADFの効率を同等に揃えることで構造と安定性の相関を適切に比較した。その結果、同じドナー基をもつ場合、マルチドナー型分子の方が高い安定性を示すこと、特定のドナー基がラジカルアニオン状態で低い安定性を示すことを明らかとした(Sci. Rep. 2023, 13, 7644)。また、結晶材料を使うことでこれまで不可能であった励起状態ダイナミクスの比較検討を行った。TADFにおける主要過程である逆交換交差(RISC)を高速化することで劣化を抑制できると考えられているが、RISCを向上させるためには分子構造や分子間相互作用などを変える必要があり、RISCの大小のみの影響を直接比較することはできなかった。しかし、同一の材料を同じ相互作用をもつ結晶状態で、ゲスト分子の有無によって励起子過程を制御することに成功した。その結果、RISCのわずかな向上は耐久性向上に寄与しないことが明らかとなった(J. Phys. Chem. Lett. 2023, 14, 5221)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、有機デバイスの劣化を有機半導体材料の具体的な分子構造と結びつけることを目指しており、R5年度の検討においても不安定性の原因となる構造や耐久性を向上しうる構造を明らかとしている。また、高速RISCにより耐久性の向上を目指すよりも、励起状態やラジカルアニオン/カチオン状態での安定性を高めることが、より効率的に長寿命素子の開発につながるといった方向性を示した。個別の成果は学術誌に報告しており、また、様々な取組みを同時に進めており、それらについても成果を得つつある。以上の研究進捗状況より、本年度までの研究進捗状況は計画以上に進展していると自己判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
R5年度は、発光材料における分子構造や励起子過程の安定性に関する検討を行い、様々な知見を得ている。一方、有機ELでは発光材料と組み合わせるホスト材料や発光層と接する電荷輸送材料など多岐にわたる材料を用いており、これらが低いデバイス耐久性のボトルネックとなっている可能性がある。そのため、革新的なホストや電荷輸送材料を創出することで、高性能デバイスの開発を進める。また、新規有機レーザー材料を創出し評価を進めることで、より過酷な条件下から分子の安定性を俯瞰する。有機発光材料の多様な分子構造と安定性の知見を蓄積することを進める。
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