2023 Fiscal Year Research-status Report
高分子モルフォロジーによる三重項―三重項消滅光アップコンバージョンの制御
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23K04924
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Research Institution | Industrial Technology Center of Wakayama prefecture |
Principal Investigator |
森 岳志 和歌山県工業技術センター, 化学技術部, 主任研究員 (90584996)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木下 卓巳 東京大学, 大学院総合文化研究科, 講師 (60635168)
竿本 仁志 和歌山県工業技術センター, 企画総務部, 課長 (70504984)
森 智博 和歌山県工業技術センター, 化学技術部, 主査研究員 (90712406)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 光アップコンバージョン / 三重項 / 近赤外 / ポリビニルアルコール |
Outline of Annual Research Achievements |
三重項―三重項消滅に基づく光アップコンバージョン(TTA-UC)は、長波長から短波長への波長変換を可能にし、太陽電池をはじめとする太陽光エネルギー利用の分野の高効率化に大きく貢献できる。応用の観点から固体型TTA-UC材料が望まれており、結晶系や高分子系における基礎研究が幅広く展開されてきた。しかしながら太陽光強度でのTTA-UC発光は依然として難しく、固体中の三重項励起子拡散の向上が鍵を握っている。令和5年度では、高分子マトリックス中の色素の分散状態の違いが三重項励起状態に与える影響を調べるため、ポリビニルアルコール(PVA)をマトリックスとしたUCフィルムを作製して、添加剤の有無またはフィルム加工による定常状態の分光スペクトル変化(吸収、蛍光、UC)及び発光寿命変化を、顕微鏡観察(SEMまたは蛍光)と対比させながら解析した。 実験で使用したUCフィルムは、色素のTHF溶液をPVAに添加し、均一になるまで攪拌、塗布そして乾燥することで得た。作製したUCフィルムには、発光色素としてルブレン、増感色素としてポルフィリン色素(PdTPTAP)またはルテニウム錯体(DX1m)を用いた。フィルム中の色素の分散状態を変えるため、疎水性添加剤の導入、そしてフィルムの延伸加工を行った。UC発光は顕微分光システムを用いて、808nmのCWレーザー光を励起光源として評価を行い、UC発光寿命においては、808nmのパルスレーザー光源を使用して測定した。いずれのフィルムからも560nm付近に明確なUC発光を示し、添加剤を導入することでスペクトルの狭帯化及び発光寿命の増加を確認した。添加剤の有無による色素の集合状態は蛍光顕微鏡観察及びSEM観察により評価し、分光スペクトル変化に与える影響について解析を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、フィルムのモルフォロジー変化を利用した色素の集合状態の把握を行い、分光評価からTTA-UC発光過程と関連付けることを目標としていた。一連の実験から添加剤導入により色素の集合状態が大きく異なることが分かった。添加剤無しの場合は、数μmの色素のドメインが存在していたのに対し、添加剤有の場合にはサブミクロンサイズの色素微粒子の集合体が確認できた。分光評価からPdTPTAPを増感色素として使用したフィルムに添加剤を導入することで、吸収スペクトルの長波長シフトさらにUC発光寿命の増加が確認された。一方でDX1mではそのような変化は確認できなかったことから、PdTPTAPの平面性の高い構造が凝集を促し、分光スペクトルに変化を与えたと考えられた。これらの結果により、色素の集合状態とTTA-UC発光の関連を導く予備的知見を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
1.色素の集合状態は、X線回折により集合ドメインの構造を明確にしていく。さらにFTIRやラマン分光なども活用してPVAと色素及び添加剤との相互作用を考慮しながら検討を進めていく。 2.令和5年度ではフィルム中の三重項励起状態を評価するためりん光発光測定を試みたが、77Kにおいても確認できなかった。そこで分子軌道計算から算出した励起準位及び色素の集合状態に着目してフィルム中の三重項励起ダイナミクスを解析する予定である。 3.各フィルムのUC発光量子収率について測定システムを令和5年度に整備することができたので、フィルムモルフォロジーの違いとUC発光特性の相関を明らかにすることを目指す。
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Causes of Carryover |
令和5年度では三重項励起状態のダイナミクスを評価するために近赤外光源を整備して発光スペクトルを評価する予定であったが、既設の紫外光源でも十分評価が可能であった。次年度以降は、成果発表を増やす予定であるため旅費等に充当する。
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