2023 Fiscal Year Research-status Report
Study for recognition of lipopolysaccharide by spike proteins of phage phiX174 using unclear magnetic resonance.
Project/Area Number |
23K04941
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
稲垣 穣 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (20242935)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | bacteriophage phiX174 / spike H protein / E. coli / lipopolysaccharide / interaction / Stern Volmer Parameter / fluorometric titration |
Outline of Annual Research Achievements |
R5年度は,φX174ファージのスパイクHタンパク質のアミノ酸配列の後半Met198からLys328に対応する部分的なタンパク質を発現するためのプラスミドを作製し,大腸菌JM109株に形質転換して,H タンパク質C末端ドメインH(CTD) 15 kDaを作製・精製した。H(CTD)は,円偏光二色性で観察するとαヘリックスを多く含む二次構造を持ち,以前の我々の研究や他グループの類似のタンパク質に関する論文の結果と一致した。H(CTD)は蛍光滴定による相互作用解析の結果,ファージの宿主となる大腸菌C株やネズミチフス菌TV119株由来のリポ多糖(LPS)とは解離定数Kd = 2.77±0.21 μM,6.83±0.36 μMと比較的強く相互作用し,一方,非宿主の大腸菌K-12 W3110株のLPSとの相互作用は12.53±2.23 μMと弱く,宿主に対する感染性を反映した様な親和性を示した。 H(CTD)の持つαヘリックス構造は,そこに宿主大腸菌C株由来のLPSを加えると,αヘリックス含量が減少するように変化した。タンパク質分子内の相互作用が,LPSとの相互作用に置き換わって行き,ヘリックス構造が減少したと推定された。 H(CTD)タンパク質を重水置換して,そこに宿主大腸菌C株のLPSから取り出した糖鎖部分である,O,N脱アシルLPSを添加して1H-NMRを測定した。コア糖鎖部分のアノメリック領域のシグナルを,Vinogradovら(Eur J Biochem, 1999, 261, 629-639)を基に帰属することが出来た。LPS糖鎖部分を共存させることにより,非還元末端のガラクトース,末端から4番目のグルコース,内部コアの非還元末端側のヘプトースの信号の化学シフトが大きく変化して,H(CTD)がそれらの糖残基と相互作用することが確認出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
過去の我々の研究では,ファージが菌体に吸着するスパイク突起を構成する二種類のタンパク質,GとHに関して,宿主大腸菌のリポ多糖(LPS)の糖鎖との相互作用を蛍光滴定や円偏光二色性スペクトルを用いて解析してきた。相互作用がより強いことが分かっているGタンパク質5量体に対して糖鎖を添加して核磁気共鳴スペクトルを測定したが,相互作用による化学シフトの変化は,混み合って解析が困難な非アノメリック領域にしか認められなかった。そこで本研究では,もう一つのスパイクタンパク質であるHにターゲットを変更した。しかし,Hタンパク質は,あまり安定性が高くなく,一週間に満たない時間で沈殿が生じてしまう。そこで,Hタンパク質の後半部分が全体部分に比べてよりLPSとの相互作用が強いことを利用して,後半部分H(CTD)を遺伝子組み換えによって調製・精製して研究を行った。タンパク質の分子量がHタンパク質全長37 kDaに比べて半分以下の15 kDaであるため,より高濃度にして,LPS糖鎖との相対的なモル比率を高めることができたことが,今回核磁気共鳴で1H信号の化学シフトの変化を観測できた大きな要因と考えられる。帰属・観測のしやすいアノメリック領域以外にも相互作用している信号がある可能性があるが,複雑すぎてどの1H信号が糖残基のどの場所の物であるかが分からない。そこで,糖鎖が短いため相互作用が小さくなるが,より信号が帰属しやすいコア糖鎖に含まれる部分構造三糖の化学合成にも着手している。外部コアは,5残基のヘキソースで構成されているため,そこから部分的に三糖を抜き出すと,四種類が考えられる。その内,非還元末端からの三残基Galα1-2Galα1-3Glc-OMeの合成を完了した。現在,次にその一つ内側のGalα1-2Glcα1-3Glu-OMeの合成を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
H(CTD)がLPS糖鎖部分と相互作用することが明らかになったため,さらに詳細に糖鎖部分のどの残基を認識しているかの探索を進める。そのために,より高感度で核磁気共鳴スペクトルを測定することができて,より分解能を高めて糖鎖の帰属を精緻に行えるように,糖鎖に13C同位体標識を導入する実験を進める。そのために全炭素が13C標識されたグルコースを培地に加える必要があり,大きなお金で購入する予定である。培養装置(ジャーファメンター)による培養に耐えるほどの量の標識糖を買うことは難しいため,当初予定していたジャーファメンターの購入を見合わせ,その代わりに,標識糖の購入に資金振り向ける計画である。 また,糖鎖だけでなく,タンパク質H(CTD)の側にも15N標識を導入すれば,二重に感度が高まるだけでなく,タンパク質の中の相互作用に関与する残基の解析が可能になる。R5年度の研究により,H(CTD)に含まれる二つのトリプトファン残基がLPS糖鎖との相互作用に重要であることが分かったことから,15Nで標識した硫安を用いてタンパク質全体を標識する,あるいは,15N標識トリプトファンを培地に添加して,相互作用に係わる残基だけを狙い撃ちして糖鎖との相互作用を核磁気共鳴で解析することができれば,よりクリアな結果を得ることが可能だと考えている。 また,糖鎖の化学合成に一層力を入れていきたい。現在外部コアの5つのヘキソースから,部分構造を抜き出した形の糖鎖の合成を行っているが,これに加えて,内部コアのL-グリセロ-D-マンノヘプトースを含む糖鎖の合成を進めたい。始めから化学的に合成する方策が一つ,また,もう一つは,大腸菌K-12株ゲノムからヘプトース転移酵素をすでにクローニングしているので,その酵素を使って,合成して用意した糖鎖にヘプトースを導入する,半合成の手法も検討する。
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Causes of Carryover |
13C標識を導入したリポ多糖糖鎖を得るために,バクテリアの大型培養装置(ジャーファメンター)を購入することを考えていたが,それを延期した。新しい組み替えタンパク質H(CTD)を作製して,LPS糖鎖との相互作用を核磁気共鳴にて観測したところ,幸いにも相互作用する信号の変化が見いだされた。そこで,次年度に残した資金で,培養装置よりむしろ,より多量の標識糖の購入に振り向けて,沢山の13C標識のリポ多糖糖鎖を作製する方が,核磁気共鳴による相互作用解析の実験研究の成果が見込めることが分かった。 また,より高性能で分解能の高い,核磁気共鳴装置の装置を求めて,次年度には,頻回に大阪大学や理化学研究所などの大型共同利用装置を使うことを計画中である。装置の使用量,宿泊・出張旅費などを多めに確保して,測定実験回数を増やし,また,より良い測定を実現するための実験の条件検討を入念に行いたい。
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