2023 Fiscal Year Research-status Report
高二酸化炭素大気下のイネの成長促進を支えるアンモニウム吸収利用の分子統御基盤
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23K04973
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
早川 俊彦 東北大学, 農学研究科, 教授 (60261492)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 植物 / 窒素代謝 / 遺伝子 / 転写制御 / 翻訳後制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
高濃度二酸化炭素環境下の植物の生育・収量増加には、窒素の吸収・同化量増加が重要であり、硝酸よりもアンモニウムの方が優位な投資窒素とされる。しかし、高濃度アンモニウム供給は、多くの植物に障害を引き起こす。主にアンモニウムを利用する水田栽培イネの根では、充足濃度アンモニウム供給応答性STYキナーゼのACTPK1が、主アンモニウム輸送体のAMT1;2をリン酸化して不活性化し、アンモニウム初期同化能が飽和しないように、アンモニウム吸収を調節する。本研究では、ACTPK1のアンモニウム供給濃度(窒素情報)応答性転写レベル調節系および炭素情報感知活性制御・アンモニム輸送体AMT1;2選択的相互作用の翻訳後調節系を解明して、新奇な窒素・炭素バランス制御系を提示し、かつ、この制御系の高濃度二酸化炭素環境下のイネ成長への重要性を明らかにする。 本年度の研究成果としては、イネ培養細胞プロトプラスト内一過的発現系でのACTPK1遺伝子部分欠失プロモーター・レポーター解析とカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターの転写コア部分のみを含む最小プロモーターへの発現機能付与試験により、充足濃度アンモニウム依存的発現に必要十分である522 bpのDNA領域を同定し、さらに、この発現機能に重要な5’末端側40 bpのDNA領域を見出した。この領域には、疑似回文配列が存在した。また、ACTPK1タンパク質の全長または部分欠損変異体とAMT1;2との分割GFP融合タンパク質発現遺伝子を、粒子銃法でタマネギ鱗葉表皮細胞に共導入後、各種窒素処理を行い、タンパク質-タンパク質間相互作用に起因する再構成GFP蛍光を共焦点レーザー顕微鏡で解析した。その結果、無窒素や硝酸供給下ではAMT1;2と相互作用させず、アンモニウム供給下でAMT1;2との相互作用を起こさせるACTPK1タンパク質の構造領域を見出せた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに、イネACTPK1遺伝子の充足濃度アンモニウム供給依存的発現に必要十分である522 bpのDNA領域を同定し、この発現機能に重要な5’末端側40 bpのDNA領域を見出した。また、無窒素や硝酸供給下ではAMT1;2との相互作用を阻害し、アンモニウム供給下でAMT1;2との相互作用を起こさせるACTPK1タンパク質の構造領域を見出せた。これらの知見は、新奇な知見であり、当該研究の進捗状況は概ね良好であると思われる。今後、AMT1;2リン酸化活性クエン酸阻害に関わるACTPK1タンパク質の構造領域の特定や、ACTPK1を介した根アンモニウム吸収制御の高二酸化炭素環境下イネ成長への寄与の評価検証も行う必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに、イネACTPK1遺伝子の充足濃度アンモニウム依存的発現に必要十分である522 bpのDNA領域を同定し、5’末端側からの欠失解析により、この発現機能に重要な5’末端側40 bpのDNA領域を見出した。しかし、5’末端側40 bpのDNA領域では応答性が低いため、さらに、3’末端側からの欠失解析により、発現に関わる領域を探索する必要がある。5’末端側40 bpのDNA領域の発現機能に関わる候補転写因子郡を選抜後、これらの大腸菌内発現・精製組換え(r)タンパク質のゲルシフト解析や野生・変異型標的シス配列融合最小プロモーター-レポーター遺伝子の低・充足アンモニウム供給イネプロトプラスト内一過的共発現で、転写因子を同定する。また、アンモニウム供給下でAMT1;2との相互作用を起こさせるACTPK1タンパク質の構造領域を見出した。この構造領域がアンモニウムを輸送しているAMT1;2の立体構造と相互作用しているのか、または、介在因子が存在して相互作用するのかを検証する。大腸菌内発現・精製した野生型・部分欠損変異型の各rACTPK1のAMT1;2 C末端ペプチド上のThr-453残基に対するin vitroリン酸化活性とクエン酸活性阻害を比較する研究も遂行し、AMT1;2リン酸化活性クエン酸阻害に関わるACTPK1タンパク質の構造領域の特定を目指す。さらに、ACTPK1を介した根アンモニウム吸収制御の高二酸化炭素環境下イネ成長への寄与の評価検証も遂行して行く。
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Causes of Carryover |
今年度の研究においては、AMT1;2リン酸化活性クエン酸阻害に関わるACTPK1タンパク質の構造領域の特定研究を行えなかった。 今年度請求額残額(次年度使用額)は、大腸菌内発現・精製した野生型・部分欠損変異型の各組換えACTPK1のAMT1;2 C末端ペプチド上のThr-453残基に対するin vitroリン酸化活性とクエン酸活性阻害を比較する研究の遂行に使用する。
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