2023 Fiscal Year Research-status Report
ストア作動性カルシウム流入から解き明かす運動による健康効果の分子機構
Project/Area Number |
23K05089
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐々木 崇 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任講師 (90771676)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 骨格筋 / カルシウムイオン / 筋萎縮 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ストア作動性カルシウム流入(store-operated Ca2+ entry; SOCE)と呼ばれる機構による筋細胞外から筋細胞内へのカルシウムイオン流入が筋機能に及ぼす影響について解析を進めている。 本研究の開始時点で、ある種の脱ユビキチン化酵素を含む複数の遺伝子がSOCE依存的に発現増大することを明らかにしており、これらのSOCE応答性遺伝子がSOCEによる筋機能制御を仲介すると予想していたが、その発現制御メカニズムは不明であった。そこで本年度は、SOCE応答性遺伝子の発現制御に関与し得る転写因子を選抜するため、SOCEにより活性化する転写因子の同定を試みた。培養細胞を用いた一連の実験の結果、転写因子NFATがSOCEにより核内移行し、この応答はSOCEを阻害した場合にはキャンセルされることが示された。以上の結果は、SOCE応答性遺伝子の発現増大に転写因子NFATが関与する可能性を示唆しており、現在これを検証するためのさらなる実験を計画している。 上記の実験と並行し、骨格筋細胞におけるSOCE応答性遺伝子の機能解析を進めている。培養骨格筋細胞C2C12に対しアデノウイルスを用いてSOCE応答性遺伝子の一種を過剰発現したところ、48時間以内に筋管細胞が細くなる様子が観察された。SOCEは主に筋収縮後の骨格筋で誘導される機構であることから、SOCE応答性遺伝子は筋肉を太くする方向に働くと推測していたため、これは予想外の結果であった。SOCE応答性遺伝子が筋細胞に及ぼす影響については今後より詳細に検討を進め、これらの生理的役割の解明に向けて迅速に研究を展開したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、SOCE応答性遺伝子の発現増大メカニズムの解析と骨格筋におけるこれら遺伝子の機能解析を中心に研究を進め、いずれの研究においても一定程度の成果を得ることができた。研究の進捗状況としては期待通りであり、かつ今後の研究につながる興味深いデータが得られつつあることから、本研究はおおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、転写因子NFATがSOCE応答性遺伝子の発現増大に寄与する可能性を示すことに成功した。NFATには複数のアイソフォームが存在することから、NFATがSOCE応答性遺伝子の発現制御にかかわることが証明された場合、どのアイソフォームが中心的な役割を果たすのかを明らかにする必要がある。そのためには、各アイソフォーム特異的なノックダウン実験などが必要になると予想される。 一方で、骨格筋におけるSOCE応答性遺伝子の機能については予想外の結果が得られており、速やかにその詳細を明らかにする必要がある。培養骨格筋細胞に対する当該遺伝子の過剰発現、あるいはノックダウン実験を継続するとともに、SOCE応答性遺伝子と相互作用するタンパク質を網羅的に探索することなどにより、SOCEの機能解明を目指す。
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Causes of Carryover |
実験計画の一部に遅延が生じ、翌年度以降に延期したため次年度使用額が生じた。 使用計画に大きな変更はなく、延期した実験を翌年度に実施する予定である。
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