2023 Fiscal Year Research-status Report
会合に基づく、高温高圧条件での色素安定化機構解明と温度による着色制御技術の開発
Project/Area Number |
23K05106
|
Research Institution | Research Institute of Environment, Agriculture and Fisheries, Osaka Prefecture |
Principal Investigator |
新名 世実 地方独立行政法人大阪府立環境農林水産総合研究所(環境研究部、食と農の研究部及び水産研究部), 食と農の研究部, 研究員 (20909981)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
園田 素啓 大阪公立大学, 大学院農学研究科, 准教授 (90314400)
|
Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | アントシアニン / 会合 / 亜臨界水 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、退色しやすいアントシアニンが亜臨界水処理という高温高圧下で安定して抽出できる機構の解明と温度による発色制御技術の開発を目的とし、アントシアニンの一種であるナスニンを対象に、安定化と発色に寄与していると考えられる会合体の形成を検証する。一般的に、アントシアニンは酸性条件でカチオンとなり構造が安定化するが、会合体は形成されにくいと考えられている。そこで、ナスニンについて、核磁気共鳴(NMR)測定に適した中性の重溶媒について検討を行ったところ、重メタノールを溶媒として用いた場合はごく短時間で退色したために十分な感度のNMRスペクトルを得られなかったが、重水を溶媒として用いることでNMRスペクトルを得ることができた。次に、会合形成を示唆するNMRスペクトルにおける化学シフトの変化を観測する目的で、ナスニンの濃度を10-5 M、10-4 M、10-3 Mと高くしてNMR測定をを試みたが、10-3 M以上の高濃度ではシグナル線幅が広がったため、正確な化学シフトの変化を観測できなかった。なお、高濃度におけるシグナル線幅の広がりは会合形成が影響している可能性がある。そこで令和6年度はシグナル線幅の広がりが軽減されると見込まれる低温NMR測定の実施を予定している。これにより会合形成に寄与する分子構造が推定できるものと考えている。さらに、NMR測定のデータ数を増やすことで会合定数を算出し、会合形成時における立体構造の推定を予定している。 また、5×10-4 Mのナスニン水溶液について、23℃におけるCD測定の結果と5℃におけるCD測定の結果を比較したところ、23℃では確認されなかったコットン効果が5℃では確認された。この結果から、室温で発色が減衰した亜臨界水抽出液を冷凍すると発色が回復する現象(温度依存性)についても会合形成で説明できることが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
会合の形成によるものと考えられる、高濃度におけるNMR測定でのシグナル線幅の広がりと低温のCD測定でのコットン効果を確認することができ、会合定数の算出にも着手しているため。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度のNMR測定では、会合形成によるものと考えられるシグナル線幅の広がりが確認された。シグナルを帰属し、会合に寄与する分子構造を明らかにするため、低温測定によりシグナル形状の改善を目指す。 また、会合する際の詳細な立体構造について、アシル基をもつアントシアニンは、芳香環をアシル基で挟み込むサンドイッチ構造(後藤俊夫, 他, 化学と生物, 22, 827-832(1984))もとり得るとされており、ナスニンについても3位の側鎖のクマル酸と芳香環部分でサンドイッチ構造を形成している可能性を確認するべきである。今後は、分子間の相互作用の強さを表す会合定数の計算や理論化学計算により求めた化学量論に基づいて設定したドッキングシミュレーションなどを継続して行う予定である。
|
Causes of Carryover |
使用しているCD測定装置について、測定費用が2年ごとの集計となり本年度は請求なしのため、来年度に集計予定分を繰り越した。
|