2023 Fiscal Year Research-status Report
凍結耐性と生長のトレードオフ関係に関与するマトリクス多糖類の探索
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23K05144
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
高橋 大輔 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (20784961)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
河村 幸男 岩手大学, 農学部, 准教授 (10400186)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 細胞壁 / 凍結耐性 / 生長 / 糖鎖 |
Outline of Annual Research Achievements |
気温が低下すると植物は生長速度が低下し、凍結耐性が上昇する(低温馴化)。一方で、気温が上昇すると凍結耐性を喪失し、生長を再開する(脱馴化)。本研究では、凍結耐性と生長のいずれにも関わる細胞壁に着目し、凍結耐性と生長のトレードオフに関わる細胞壁多糖を解析することを目的とした。 本年度は、水素結合によってセルロース微繊維間の架橋を担うヘミセルロースの一種、キシログルカンに着目して、その凍結耐性と生長を定量的に解析した。キシログルカン量が劇的に低下した変異体であるxxt1 xxt2の凍結耐性を評価すると、低温未馴化では野生型に比べて顕著に低下していた。一方で、低温馴化後にはxxt1 xxt2は野生型と同レベルの凍結耐性を獲得しており、その形質は脱馴化過程でも引き継がれていた。 植物の生長を評価するために、低温未馴化、馴化、脱馴化過程での葉面積を測定したところ、いずれの過程でもxxt1 xxt2の方が若干野生型よりも小さかった。一方で、地上部の生重量は野生型とxxt1 xxt2でほとんど変わらなかったことから、xxt1 xxt2の葉厚が増加していることが予想された。そこで、葉を樹脂に包埋し、切片を作成して顕微鏡下で葉の組織を観察したところ、野生型では脱馴化で葉の厚さは増加していたのに対し、xxt1 xxt2はいずれの処理過程でも葉の厚さが変わらず、野生型より常時葉が厚かった。葉の細胞別の大きさを測定したところ、表皮細胞や柵状組織の細胞の大きさは変わらず、海綿状組織の細胞の大きさのみが増加していた。以上のことから、キシログルカンは未馴化時の凍結耐性に関わっているとともに、低温適応過程での生長に複雑な影響を及ぼしていることが考えられる。 現在は、xxt1 xxt2で特異的に増加する他の細胞壁多糖を調べるとともに、脱馴化後の再馴化でどのような生長パターンを示すかを調べることを予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初に初年度予定していた野生型とキシログルカン量が低下した変異体であるxxt1 xxt2における凍結耐性評価と生長解析が終了し、重要な細胞壁多糖であるキシログルカンに関する興味深い結果を得ることができた。同時並行で、初年度に予定していた低温馴化過程での細胞壁多糖の組成変化の分析も進めている。現在までに、野生型の低温馴化過程で若干のキシログルカンの増加がみられ、xxt1 xxt2におけるキシログルカン量は顕著に低下していることを確認した。一方で、低温馴化過程で見られるペクチン性ガラクタンの増加などははxxt1 xxt2でも野生型と変わらずみられることがわかった。また、xxt1 xxt2ではキシログルカン量が野生型よりも低下している代わりに、低温未馴化、馴化、脱馴化過程いずれもキシランが野生型よりも多い傾向が見られた。 そこで、当初3年目に予定していた細胞壁多糖の免疫組織染色を初年度に前倒しし、キシログルカンやキシランの免疫組織染色を行なった。概ね上記の細胞壁多糖の変化が顕微鏡下でも確認できたが、キシランの染色領域が維管束周辺の二次壁が堆積しているごく小さい領域に限定されるために、野生型とxxt1 xxt2の違いの傾向を掴むことができなかった。現在は、生化学的解析に立ち戻り、様々な細胞壁多糖を見分けることが可能な糖鎖結合解析を行う準備をしている。 上記実験の進捗を総合的に判断し、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は当初の予定通り糖鎖結合解析を行い、2023年度で得られた結果を追試することを計画している。また、野生型とxxt1 xxt2の比較において、低温未馴化でxxt1 xxt2の凍結耐性の低下が見られ、低温馴化や脱馴化では野生型とxxt1 xxt2の差異が見られなかった。一方で、生長解析においては未馴化の状態から野生型よりもxxt1 xxt2の葉が分厚く、野生型が生長を再開させる脱馴化過程まで同様の傾向が見られた。xxt1 xxt2は脱馴化後に未馴化とは異なる形質を見せていることから、当初の予定を変更し、再度低温馴化をかけた際の野生型とxxt1 xxt2の凍結耐性や生長などにおける違いを明らかにすることを検討する。 また、2024年度は主に実験に用いているシロイヌナズナ以外に、ホウレンソウとコマツナにおいて低温にさらした際の生長変化を解析することを計画している。現在は育成環境のセットアップを行なっており、コマツナにおいて低温下で生長特性が変化することを確認している。
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Causes of Carryover |
国際学会への参加に係る旅費を他の経費で支出したため、2023年度の支出額が当初より少なくなった。未使用額に関しては、次年度の国際学会参加費に充当する予定である。
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