2023 Fiscal Year Research-status Report
Development of new soybean ecotype adapting climate change.
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23K05168
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
渡邊 啓史 佐賀大学, 農学部, 准教授 (40425541)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
後藤 文之 佐賀大学, 農学部, 教授 (20371510)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ダイズ / 栄養成長性 / 開花期 / 成熟期 / 収量 / エコタイプ |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では、8月上旬播種であっても十分な栄養成長量を確保できる新しいダイズエコタイプ(生態型)の作出に必要な、基本栄養成長期間を制御する遺伝子を明らかにし、その遺伝子を導入した系統の育成と評価を目的としている。新規LJ(Long Juvenile)形質を制御する遺伝子座を明らかにするために、九州地方で多く栽培されるフクユタカ(FUK)と、晩生品種Karasumame_(Naihou)(PGC173), Local_Van_(Tegineng)(PGC182), Miss_33_Dixi(PGC191)を両親とした3種類の分離集団を育成した。これらのF2種子を佐賀大学農学部圃場に短日条件下(2023年7月20日播種)で栽培し、F2分離集団を3集団作成した。分離集団を構成する個体数はFUK×PGC173系統が197個体、FUK×PGC182系統が91個体、FUK×PGC191系統が168個体であった。すべてのF2集団の開花期は連続的な分布を示した。3種類のF2分離集団の開花時期と各遺伝子座の遺伝子型を対象にした回帰分析を行った。J,Tof11,Tof12,E1La,E1Lb,E9,E10の7遺伝子座を対象に分析を行い、LJ形質に関わる染色体領域はE9,E10,Tof11,Tof12の近傍に存在していることが明らかになった。各遺伝子座における晩成型品種の持つ対立遺伝子の効果は、E9で2.9日(p<0.001)、E10で1.1日(p<0.01)、Tof11で1.8日(p<0.001)、Tof12で2.2日(p<0.001)であった。上記の遺伝子座による寄与率は19.1%であり、未同定の遺伝子が存在することが示唆された。遺伝子座ごとの寄与率は、E9が8.7%、E10が1.0%、Tof11が5.0%、Tof12が5.8%であった。E9が特に開花日数に対して関与していることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和5年度は分離集団の育成と形質評価、既存の遺伝子座におけるQTLの効果の評価を行った。既知の開花関連遺伝子の中で、Tof11やTof12のように、ある程度分離集団における遺伝的分離が予測できる遺伝子座についてその効果を確認できた一方で、E9やE10遺伝子の関与は晩成型の栽培品種の中に遺伝的な多様性があることがこれまでに報告されておらず、新規の知見が得られたと考えられる。E9遺伝子はフロリゲン遺伝子のプロモーター領域に配列の変化が生じることで、フロリゲン遺伝子の発現量に影響を及ぼす。特に、高緯度地域に適応したダイズ品種において、感光性を失った中で基本栄養成長期間を確保するために、生じた晩成型に働く遺伝的要因として見出されており、今回のような低緯度地域の晩成型品種においても同様の遺伝子に対し、変異が生じることで晩生化が生じている可能性が示唆されたことは、E9遺伝子が低緯度地域の晩成品種育成に有用であることを示している。今年度の研究で関与が考えられた遺伝子座以外について、関与する遺伝子座を同定するための実験が必要である。また今年度同定された遺伝子座について、フクユタカに対し、戻し交配を実施することで、優良品種の持つ遺伝背景の中での遺伝効果を検証する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、戻し交配によるフクユタカへのLJ形質の導入を行う。F3系統の遺伝子型情報を元に、LJ形質に関わる対立遺伝子を多く保有する系統を選抜し、フクユタカとの戻し交配(BC)を2度繰り返し、BC2世代を育成する。戻し交配や自殖による分離集団の育成には佐賀大学が保有する植物工場を始めとした人工気象環境を利用することで、1年あたり4世代を育成し、LJ形質に関与するQTLを集積した複数のBC2F2世代を育成する。また、LJ形質の精密マッピングとBC集団を利用したLJ形質の解析を実施する。2024年度中に戻し交配集団、精密マッピング用の分離集団を育成し、次年次以降の研究において利用できる、圃場規模での集団の育成を行う。各個体の開花時期を評価するとともに、LJ遺伝子のポジショナルクローニングに取り組む。またフロリゲン遺伝子の発現量の低下を始めとする、LJ形質に関与する遺伝子を明かにするために、戻し交配集団に由来する系統を対象に開花2週間程度前の本葉からRNAを経時的に抽出し、フロリゲン遺伝子の発現解析を実施するとともに、一部のサンプルについて、RNA-seqを実施することで、LJ形質をもたらす遺伝子レベルでの変化を明かにする。収量性を始めとする各種農業形質について調査を行い、戻し交配によって導入した新規LJ形質が晩播種による収量性の低下にどの程度効果を発揮するかを検証する。
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