2023 Fiscal Year Research-status Report
カンキツ果実における「粒化症」障害発生機構の解明と軽減技術の開発
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23K05207
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
張 嵐翠 静岡大学, 農学部, 特任助教 (20767371)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 粒化症 / カンキツ / はるみ / 二次代謝産物 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和5年度は、粒化症の発生メカニズムを解明するため、果実サイズが異なるカンキツ‘はるみ’果実を用いて、果実サイズが粒化症の発生およびカロテノイド代謝に及ぼす影響を調査した。その結果、果肉の断面の外観変化から、果実サイズが大きいほど粒化症の発生度合いが高かった。総カロテノイド含量は貯蔵期間中、果実サイズが大きいほど低い値を示した。特にβ-クリプトキサンチンが総カロテノイドの47%以上を占めており、貯蔵期間を通して、Lサイズの果実のβ-クリプトキサンチン含量はSサイズの果実と比較して顕著に低い値を示した。また、リアルタイムPCRによる遺伝子発現解析から、Lサイズの果実においてカロテノイド生合成遺伝子(CitPSY、CitPDS、CitZDS、CitLCYb2および CitHYb)の発現レベルはSサイズの果実と比較して低い傾向を示した。一方、カロテノイドの代謝分解に関わるCitNCED2およびCitNCED3の発現レベルはL果実において、Sサイズの果実と比較して顕著に高いレベルを示した。また、貯蔵期間中、Lサイズの果実のABA含量はSサイズの果実より高かった。 果肉におけるリグニン含量は、貯蔵に伴い増大し、果実サイズが大きいほど高い値を示した。Sサイズの果実では、スクロース、フルクトースおよびグルコースの含量は貯蔵に伴い増大した。Lサイズの果実では、スクロースの含量は貯蔵に伴い増大したが、フルクトースおよびグルコースの含量は収穫後1か月目から急速に減少した。貯蔵期間中、Sサイズの果実の3種類の糖の含量はLサイズの果実よりはるかに高かった。 以上の結果より、果実サイズが大きく粒化症の発生程度の高いLサイズの果実では、カロテノイド生合成および代謝遺伝子の発現変動が粒化症特有の果肉の退色に関わることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和5年度は、粒化症の発生メカニズムを解明するため、果実サイズが異なるカンキツ‘はるみ’果実を用いて、果実サイズが粒化症の発生およびカロテノイド代謝に及ぼす影響を調査した。12月に収穫した‘はるみ’果実をS(5.0~6.5 cm)、M(6.5~8.5 cm)、L(8.5~10 cm)に分け、10℃の暗所下で5か月間貯蔵した。1か月ごとに粒化症の発生度合いを視覚的に評価し、カロテノイド、リグニン、糖、有機酸、植物ホルモンABAの含量をHPLCなどにより定量した。また、カロテノイド生合成および代謝に関わる遺伝子の発現レベルの変動をリアルタイムPCRにより解析した。これらの解析から、果実サイズが大きく粒化症の発生程度の高いLサイズの果実では、カロテノイド生合成および代謝遺伝子の発現変動が粒化症特有の果肉の退色に関わることが明らかとなった。 以上より、今年度の研究は「おおむね順調に進展している」と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
令和6年度から以下のような研究を計画的に遂行する。収穫した‘はるみ’果実にPE包装、CaCl2溶液、植物ホルモンジベレリンを処理し、粒化症の発生を視覚的に確認し、カロテノイド含量・組成および粒化症の原因となるリグニンの含量をHPLCなどを用いて測定する。マイクロアレイ解析より、リグニンの生合成に関わる遺伝子を単離する。また、カロテノイドおよびリグニンの蓄積に関わる遺伝子の発現解析をリアルタイムPCRにより行う。さらに、カンキツの培養砂じょうに植物ホルモンアブシシン酸および水ストレス(マンニトール)処理を行い、これらの処理が粒化症の発生、カロテノイドおよび粒化症の原因となるリグニンの蓄積に及ぼす影響を調査する。
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