2023 Fiscal Year Research-status Report
Short-term replacement and mechanism of Wolbachia infections in cabbage looper, Trichoplusia ni.
Project/Area Number |
23K05253
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
野村 昌史 千葉大学, 大学院園芸学研究院, 教授 (50228368)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | ボルバキア / Wolbachia / イラクサギンウワバ / 置き換わり / 塩基配列解析 / MLST解析 / シークエンスタイプ |
Outline of Annual Research Achievements |
昆虫に広く感染する細胞内共生細菌Wolbachia(以下 ボルバキア)は,ミトコンドリアDNAと同様,母親から子へと伝播し,宿主に対して生殖操作を行うことが知られている。我々の研究によりチョウ目害虫イラクサギンウワバへ感染しているボルバキアは,一部地域で2013年から20年の7年間でW1系統からW2系統に変化していたことが示された。 そこでイラクサギンウワバに感染するボルバキアの系統を調査するため既に採集してあった個体群並びに2023年度に採集した北海道から沖縄までの全18個体群を用いて遺伝子解析を行った。感染しているボルバキアの5遺伝子(coxA,fbpA,ftsZ,gatB,hcpA)の塩基配列を解析し,また対立遺伝子の配列の差異により,シークエンスタイプを決定した。 日本各地の個体を解析した結果,新たにみられたW2系統は,主に関東から関西に見られ,福岡県と沖縄県ではW1とW2の二系統が混在していた。従って今回の解析によりW2系統は一部地域だけではなく,日本全国に広くみられることが明らかとなった。 次に5遺伝子の塩基配列をもとに,各対立遺伝子の配列を登録してある,MLST(Multi locus sequencing typing)データベースに照会したところ,W1はチョウ目に広く感染しているシークエンスタイプST-41,W2はタバココナジラミに感染しているST-423に属することが明らかとなった。 ST-41,ST-423共にデータベース上に既出な配列であること,W2が属するST-423は新規のものではなくタバココナジラミでもみられる配列であることから,W2の出現は突然変異によるものではなく,ボルバキアの種間を超えた水平伝播,もしくは遺伝子の組み換えによる可能性が高いことが考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の遺伝子解析により,新たに見つかったボルバキアのW2系統は関東から関西および中国沖縄地方でも認められたことから,一部地域だけではなく日本各地で見られる(置き換わりは広範囲で進んでいる)ことが明らかとなった。また両系統の塩基配列をもとにしたMLST解析で,両系統の配列はそれぞれ既存のシークエンスタイプであったことから,突然変異によるW2出現の可能性は低いなど,新たな知見を得ることができ,この点は想定より進んだ結果を得ることができたと判断した。 また以前からのW1系統も各地で認められたことから,全てが置き換わってしまったのではないことも明らかとなった。このため,W1系統がみられる地域も存在することから,その場所で生きた個体群の採集を行い,両系統のボルバキアに感染した個体群の維持管理を試みた。しかしW1系統に感染した幼虫を得たものの,もともとの採集も多くなく,さらに罹病等により採集した幼虫のほとんどが死亡してしまったため,結果的にはW1系統を維持することができなかった。一方W2系統については,多くの幼虫や成虫を採集できたため,現在に至るまで比較的順調に個体群の維持ができている。 以上のことから,研究計画に記したように「前倒しで」実験を行うことができなかった。このため研究の進捗状況としては「おおむね研究計画どおりに順調に進展している」が妥当であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
新たに認められたボルバキアのW2系統が,意外に日本列島の広範囲で認められたことは,10年以内という短期間では大きな驚きであり,どうしてこのような現象が起こっているのか,そのメカニズムを明らかにすることが今後の本研究課題の大きな柱になることが予想される。 また以前からのW1系統も存在していたことから,研究計画に記したW2系統しか存在しなかった場合の実験は行う必要がなく,直接W1およびW2の細胞質不和合の強さの比較を行うことができる。これは本研究課題にとって大きな利点であり,より明確な実験計画を立てる目処がついた。 そこで現在まだ維持ができていないW1系統の採集と系統維持を行い,両系統が感染しているイラクサギンウワバの掛け合わせにより,系統間の細胞質不和合の強弱を明らかにしたい。既にW2系統については順調に個体群が維持できているので,多くの幼虫が採集できれば問題なく維持管理できると考えられる。両系統の維持ができたところで速やかにかけ合わせ実験を行う予定である。
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