2023 Fiscal Year Research-status Report
Endangered species of zooplankton: basic research on their properties and conservation
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23K05266
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
牧野 渡 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (90372309)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 動物プランクトン / 分布 / 隠蔽種 |
Outline of Annual Research Achievements |
本邦の淡水動物プランクトンでは、多くの種が二次的自然の「ため池」に出現する。そのうちカイアシ類の日本固有種には、狭い地理範囲の少数のため池にのみ生息するものがある。ため池の荒廃が急速に進む現在では、このような種は潜在的な「絶滅危惧種」である。実際に、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリスト(ver 2.3)で情報不足(Data Deficient)とランク付けされた種(以後、A種と記す)も本邦のため池に分布している。 R5年度は、A種の保全に係る基礎的知見を得るために、A種のため池内、およびため池間での遺伝的な分化を調べた。具体的には、A種の十数集団の、集団当たり5個体程から個別に抽出されたDNA試料を使って、すでに解析済みのミトコンドリアDNA・COI領域に加えて、新たに同DNA・12SrRNA遺伝子領域の部分配列を決定した。そして、両遺伝子領域のデータから改めて分子系統樹を作成した。その結果、どちらの遺伝子領域とも、基本的に同じトポロジー(単一の種であるとみなすには無理のある、2つの遺伝系統に大別される)を示した。従ってミトコンドリアDNAの塩基配列では、A種は2つの遺伝系統に大別されることが、ほぼ確実となった。なお、異なる2つの遺伝系統が同一のため池から出現することは、認められなかった。 このようにA種は、形態では識別不可能だが遺伝的には別種とすべき複数の遺伝系統からなる「隠蔽種の複合体 cryptic species complex」に相当する。これが実際に「隠蔽種の複合体」であれば、種あたりの出現ため池数が、現在の理解よりも小さくなる。従って「絶滅危惧」の度合いが、現状の理解よりも遥かに高いことになる。この点を検討するために、上記と同じDNA試料を、超並列シーケンサーを用いたゲノムワイドな一塩基多型(SNPs)解析に供し、より高解像度な遺伝的データを取得した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の最重要対象種であるA種について、ミトコンドリアDNAの部分配列に加え、ゲノムワイドな一塩基多型(SNPs)が取得できた。本研究の骨子となるこれらのデータが無事に得られているため、進行状況を(2)おおむね順調と評価した。ただし、ゲノムワイドなデータについては、予備的な解析が終了した段階であるため、進行状況を(1)当初の計画以上に進展している、とは評価し得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のとおり、A種のゲノムワイドな一塩基多型(SNPs)については、予備的な解析が終了した段階である。これについてR6年度に、より詳細な解析を進める。なお上述した結果により、A種はcryptic species complex(形態的には不可分であるが、遺伝的には異なる、隠蔽種の複合体)である可能性が高い。ゲノムワイドなSNPs解析のデータに基づき、A種は何系統の隠蔽系統(隠蔽種)とすべきかについて、検討を加えたい。 さらに、A種の近縁種で、日本で採集された試料をもとに原記載されたカイアシ類であるB種(やはり隠蔽種の複合体である)についても、その保全に係る基礎的知見を得るために、超並列シーケンサーを用いたゲノムワイドなSNPs解析を行う予定である。
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Causes of Carryover |
R6年度から、本研究の遺伝的解析を行う実験室が変更となること(研究代表者の所属は変更されないが、現在利用中の実験室は開け渡すことになった。そのため、同一研究科内の、別のラボを使用することになった)が2024年2月に決まった。移動先のラボでは、実験機器類の移設に関連する、種々の消耗品が必要となるが、実際にR6年度に移動した後でないと、何がどれほど必要かは不明であった(移設を見越して、R5年度に購入した消耗品が、移動先で有効利用できるか、不明であった)。上記の次年度使用額は、この実験機器の移設に係る消耗品類の費用に充当する目的で発生させたものである。
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