2023 Fiscal Year Research-status Report
光害回避のための道路デザインを目指した昆虫の道路背光反応の解明
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23K05278
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Research Institution | Ishikawa Prefectural University |
Principal Investigator |
弘中 満太郎 石川県立大学, 生物資源環境学部, 准教授 (70456565)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 行動学 / 昆虫 / 背光反応 / 人工光 / 反射光 / ロードキル / ハネナガイナゴ / コナガ |
Outline of Annual Research Achievements |
背光反応(dorsal light reaction)は,動物が体の背側に空間内の明るい方向を配置するよう姿勢制御する行動現象とそれを制御するメカニズムを指す.しかし,その行動的特徴,背光反応を誘起する対象,その光刺激の特徴,といったことはほとんど明らかにされていない.また,飛翔する夜行性昆虫が道路灯やヘッドライトで照明された道路で背光反応が誘起させられ(道路背光反応),その結果として道路上に落下してロードキル(轢死)している事実が予備観察から得られている.それらを踏まえて本研究の目的は,昆虫の背光反応の全体像を明らかにし,背光反応が駆動する未知の生態的光害である道路背光反応の存在を明らかにすることにある. 初年度(令和5年度)には,小課題「1.背光反応の行動的特徴」を進めた.大型LEDパネルで構成された実験アリーナの中で,コナガPlutella xylostella (チョウ目:コナガ科)の飛翔パターンは照射条件によって顕著に異なった.上向き照射下で通常の飛翔は阻害され,飛翔開始後すぐに下面に背側を向けようと体を回転させ,落下して下面に着地した.この飛翔阻害の現象は,Rainey and Ashall(1953)によってサバクトビバッタで観察された失速ターン(stalled turn)と呼ばれる行動と同じものと考えられた.飛翔阻害が起こった場合,コナガは主にピッチ軸で身体を回転させた.上向き照射下では,63.6%の個体がピッチ軸でターンを行い,18.2%が不完全なロールを,9.1%がロールとターンを行った.照射条件により着地位置も大きく異なった.下向き照射下において,多くのコナガは上面や側面に着地した.一方で,上向き照射下では,多くが下面に着地した.これらの結果は,上方照射下におけるコナガの飛翔阻害が背光反応によることを強く示唆している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の課題としていた,「1.背光反応の行動的特徴」では,モデル種としてコナガを選定し,上面もしくは下面からLEDを照射する環境において,その飛翔行動を高速度撮影した.画像と映像の解析から,飛翔時の姿勢,飛翔距離,飛翔の高さなどの姿勢制御の行動様式を記載した.また背光反応の解発の程度により,下面への落下頻度が増加することを見出し,これを背光反応の評価基準をすることができた. 一方,小課題「2.背光反応で利用される光受容器」では,ハネナガイナゴを用いて,背光反応に利用される光受容器を特定することを目的としていたが,猛暑の影響などにより採集地におけるハネナガイナゴの発生個体数が著しく少なかったため,感覚遮断実験が実施できなかった.このような状況から,研究全体はやや遅れていると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
2年目(令和6年度)は,「3.背光反応の対象の光学特性」と「4.背光反応が誘起される光条件」の2つの小課題を進める.「3.背光反応の対象の光学特性」では,ハネナガイナゴの道路背光反応を引き起こす野外に存在する対象を特定し,その光学特性を測定する.候補対象は,夜空,複数の光源種の道路灯,道路灯の路面反射とし,スペクトル,光強度,フリッカー特性などの光学特性を測定する.その後,各対象が強く影響を及ぼしている道路環境にイナゴを放虫して背光反応の誘起頻度を比較する.「4.背光反応が誘起される光条件」では,小課題1で決定したコナガを用いた実験を行う.大型LEDパネル光源を敷いた実験室内で,上方照射する直接光のスペクトルと光強度という2つの光条件を制御することで,背光反応が強く誘起されるスペクトルと光強度を特定する.
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Causes of Carryover |
気象上の影響と思われる理由により,実験材料であるハネナガイナゴの発生個体数が少なかったことに基づいて,「2.背光反応で利用される光受容器」の準備のための消耗品費と学生アルバイトへの謝金の一部の支出がなくなったことが,次年度使用額が生じた理由である.次年度は計画を変更せずに,事前の予定通りに「3.背光反応の対象の光学特性」と「4.背光反応が誘起される光条件」の2つの小課題を実施する.そのことから,発生した次年度使用額は持ち越して,3年目に状況に応じて「2.背光反応で利用される光受容器」を実施し,その際には実験系の構築のために必要な消耗品や学生アルバイトへの謝金として使用する.
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