2023 Fiscal Year Research-status Report
アコヤガイ貝殻内面のメラニン沈着の重篤化メカニズムの解明と軽減方法の探索
Project/Area Number |
23K05352
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
佐野 菜採 三重大学, 生物資源学研究科, 学術研究員 (50636545)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | アコヤガイ / メラニゼーション / RNA-seq |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、主に以下の研究を行った。 1.黒変病と関連していると考えられているTenacibaculum以外のアコヤガイ常在菌でも黒変が形成される検討した。アコヤガイの外套膜から分離された9株の細菌をアコヤガイ(2 年貝)の左外套膜外腔に各株3個体に接種し,止水水槽,無給餌,25°Cで2週間飼育した後,黒変の有無と重度を観察した。各株1 個体の黒変部からDNA を抽出し,細菌 16S rRNA のメタゲノム解析を行った。つぎに,黒変の重度が高かったPseudoalteromonas 属2株を各株20個体ずつの左外套膜外腔に真珠筏(水温約26-29°C)に垂下し,接種後,10,20,30 日後に5 個体ずつ取り上げ,貝殻内面の観察と30 日後の黒変部の細菌叢のメタゲノム解析を行った。その結果,重度の違いはあるが,接種した9 株全てで黒変が認められた。その内,Peudoalteromonas 属2 株を接種し誘発された30 日後の黒変部の細菌叢は,7/8 個体でTenacibaculumsp.が優占していた。よって,Tenacibaculumは他要因で形成された黒変部において増殖し,優占種となることが推察された。 2.アコヤガイの夏季萎縮症ウイルス感染後の外套膜の遺伝子発現の網羅的解析をRNA-seqにより行った。PiBVを含む病貝の体液をアコヤガイ(3年貝)に接種し,RNA-seq解析を行った。接種前と各サンプリング日の間で数百の発現変動遺伝子(DEG)が得られた。これらのDEGと経時的変動の各クラスターの遺伝子は自然免疫やウイルスに対する防御反応等が多くを占め,これらはPiBV感染によるアコヤガイ外套膜の遺伝子発現変動の特徴を表すものと考えらた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アコヤガイの殻内面のメラニン沈着の重篤なものを黒変と呼ぶ。黒変部の細菌叢ではTenacibaculumが優占することが分かっているが,大腸菌,酵母によっても黒変が起きることは先行研究で分かっている。アコヤガイの常在菌でも黒変が起きることを計画通り1年目に明らかにできた。 メラニン沈着の重篤化に関連する遺伝子の探索には,まず,アコヤガイの感染症における遺伝子の網羅的発現解析を行う必要があり,それを計画通り1年目に行えた。 その為,おおむね順調に進展しているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
1.黒変部での細菌叢に関しては,本年度はウイルス感染の後にTenacibaculumの増殖が起きるという仮説の下,人為的にウイルスを感染させ形成された軽度のメラニン沈着(褐変)がその後重篤化するかどうか,および,その細菌叢の解析を行う。 2.RNA-seqの結果から推定されるアコヤガイの感染症におけるメラニン形成に関連する遺伝子の定量PCRを行い,重篤化のメカニズムを明らかにする。 3.昨年度から引き続き行う1,2の項目に加え,3項目目であるウイルス感染や黒変に耐性がある系統の育種に向けた基礎的研究を行う。研究協力者である英虞湾種苗で維持されている,病気に強いとされる系統と弱いとされる系統を1対1交配する。稚貝の集団と病気が流行する時期を超えて生き残った集団を,次世代シーケンス解析のひとつであるMIG-seqを用いて比較し,集団の遺伝子組成が変わるかどうかを検討する。
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