2023 Fiscal Year Research-status Report
海洋細菌が生産する低温高圧環境で働く生分解性プラスチック分解酵素の解明
Project/Area Number |
23K05368
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
石田 真巳 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (80223006)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 生分解性プラスチック / 海洋分解細菌 / 酵素生産 / 活性測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、計画していた生分解性プラスチックPHBH分解細菌の分解活性が保存中に低下したため、低温高圧海洋由来の分解菌ライブラリーから安定な分解活性を示す新株を選出し、酵素精製に必要な酵素試料を得ることができた。 菌株保存中の活性低下は珍しい現象ではないが、PHBH分解活性が強く安定な新株としてColwellia sp. T44株(以下T44株と表記)を得たことで計画通り酵素の解析に進められる。T44株は、PHBHを含む海水最小寒天培地で10~20℃の低温でPHBH分解ゾーンを形成した。 本課題の主目的であるPHBH分解酵素の特徴解析には、酵素の純度を上げる精製が必須である。酵素研究では、精製後の酵素の特徴解析より酵素の生産から精製の段階の方が困難が多い。T44株の分解酵素を精製するため、酵素の生産効率の高い温度や時間を調べ、以下の様に活性測定方法を改良し、酵素の存在場所を特定した。PHBHは水に溶けにくく、基質を懸濁液の様にするエマルジョン法が分解活性測定に有効である。しかし、海水試料では沈殿が起きて測定できなかった。測定条件を検討し、1時間以上の長時間測定によって測定できることが分かった。この方法を使ってT44株の分解酵素が細胞に結合しているか、細胞外(培養上清という)に分泌されるか、部位別の分解活性を調べ、酵素が主に細胞外に分泌されることを明らかにした。培養上清を連続限外濾過という方法で濃縮し、酵素精製に必要な濃い酵素液を得た。こうして酵素生産から精製へのハードルを越え、特性解析に進めることができる。 PHBHの生分解とは、PHBHが微生物によってCO2にまで分解されることである。今年度は、他の生分解性プラスチックを試料として閉鎖系での酸素消費試験を行い、分解によるCO2生産を確認した。これを基に、同条件の閉鎖系で、T44株によるPHBHの生分解の確認を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の中心となる酵素の特性解析には、試料となる酵素の安定な生産と精製する方法の確立が必要である。 生分解性プラスチックPHBHの分解酵素を安定して生産する細菌株について、計画していた分解菌株が保存中に活性低下したが、安定に分解活性を示す低温適応細菌を新たに得たことで計画通りに進められる。 純度の高い酵素を得るための酵素精製は、本研究課題の必須のステップである。精製上、頻繁に使用する活性測定方法を改良することができた。それによって、PHBH分解酵素を精製する上でネックとなる生産条件や局在部位(どこに酵素が蓄積しているか)を明らかにすることができた。精製を確実に進めるには、酵素量が多く入手できることが非常に有利である。培養容積を大きくすれば生産される酵素は増えるが、精製においては、体積が小さい方が容易に進めることができる。この点も連続限外濾過という方法が目的酵素に適用可能であることを確認できたので、濃縮された酵素を試料として、順調に精製を進められる。 PHBHをT44株が生分解(CO2にまで分解)するかの確認では、計画していた閉鎖系の酸素消費測定装置であるOxiTopを用い、他の生分解性プラスチックを試料とする実験を行って生分解を確認できた。こうして得られた条件を基にして、T44株がPHBHをCO2まで分解するかのOxiTopによる検査は、次年度の初期に試験できる。 以上のように、今年度、予想外の困難が何点か起きたが、各々の問題を乗り越えることができたので、概ね順調と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では、2024年度は精製したPHBH分解酵素の解析から遺伝子単離に進め、遺伝子高発現から酵素の結晶化、立体構造解析へと進める予定である。この計画の意義は、精製した酵素の種々の酵素的特性(性質や能力)を明らかにすることに加え、立体構造解析によって酵素の構造面から特性の裏付けを得ていくことである。立体構造が分かれば、酵素の部分構造を変異させて、どの部分が特性に影響するか解明することに繋がる。こうして、生分解性プラスチック分解酵素自体の特徴を深く理解するのみならず、分解を受ける生分解性プラスチックの改良(酵素の構造と上手く合致する)も可能になる。 この計画に沿って今後の研究を進めていく。酵素を精製して基質特異性(PHBHだけでない生分解性プラスチックを分解するか)、温度・圧力特性(低温・高圧の海洋環境で効率よく分解能が発揮される酵素か)などを明らかにする。それに加えて、精製された酵素があれば、アミノ酸配列解析という方法が可能になり、酵素の遺伝子の探索ができる。遺伝子を得れば、天然の分解菌の酵素生産量を超える酵素の高効率生産が可能になるので、立体構造解析も実現可能性が高くなる。 個々の成果を学会発表等で公表するとともに酵素の精製と特性解析がまとまった段階で投稿論文にする。
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Causes of Carryover |
物品費に含まれている設備備品としてOxiTopがあった。この装置の設備備品費を当初計画では1,129,700円と見込んでいたが、研究代表者の研究室にあった装置の一部を本研究課題でも共通して使用可能と分かり、必要な装置部分だけ755,370円を購入することで節約し、翌年度に不足している酵素結晶化関係や遺伝子関係の消耗品費にすることにした。 そのため、翌年度分として請求した助成金と合わせ、翌年度の物品費として使用する計画である。
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