2023 Fiscal Year Research-status Report
イルカ前胃の機能解明~新種ウレアプラズマとの共生関係から探る新たな進化機構~
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23K05386
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
瀬川 太雄 日本大学, 生物資源科学部, 助教 (50755600)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | イルカ / ウレアプラズマ / 培養細胞 / 進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度はイルカにおけるUreaplasma ceti の機能について明らかにするために,イルカ組織培養細胞(TK-STおよびdLu)との共培養を行った.Ureaplasma ceti と共培養したTK-STは,細胞接着性の低下,細胞質内の顆粒増加や細胞膜の不明瞭化が認められ,dLuでは細胞接着性の低下が強く認められた.カスパーゼ遺伝子発現解析では,Ureaplasma ceti と48時間共培養したTK-STにおいて脱核や角質層のバリア機能を向上させる機能を持つと予想されるCasp-14の転写活性が有意に誘導された.この結果からUreaplasma cetiは角化を促していると予想して,角化関連遺伝子(FLGおよびINV)の転写活性を調べた.これらの遺伝子はUreaplasma ceti と共培養したTK-STでのみ転写活性の誘導が認められた.共培養解析より,Ureaplasma ceti はイルカ類前胃の細胞内に共生し,前胃の角化を促す機能があることが推測された. 次にUreaplasma cetiとイルカ類(ハクジラ類)との進化系統分類の関連性を調査した.その結果,ハクジラ類が保有するUreaplasma cetiは,解析した全ハクジラ類から検出された系統A,カマイルカ・スナメリから検出された系統B,シロイルカ・カマイルカから検出された系統Cの3 つの分子系統に大別できた.次に,各系統の特異的プライマーを用いて,ハクジラ類が保有するUreaplasma cetiの系統を調査した.途中成果ではあるが,ほぼ全てのイルカにおいて系統AとBの保有が確認されている一方で,シロイルカと一部のカマイルカにおいて系統Cを保有する個体が確認された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の推進により,Ureaplasma cetiとイルカ類との共生関係の一端を解明するなど順調に成果をあげている.またイルカ類によって保有するUreaplasma cetiに差があると思われる成果も得ている。さらに,すでに有している培養系を用いて,別系統のUreaplasma cetiの分離培養に成功しておりゲノム情報から解析しているなど,順調に成果をあげている.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,Ureaplasma cetiが角化を誘導するメカニズムの解明,シロイルカのみが保有するUreaplasma cetiの分離培養を成功させ,そのゲノム解析を行い,より詳細な共生関係を明らかにする予定である.また研究の過程で,Ureaplasma cetiのゲノムを再考する中で,Ureaplasma cetiは他のUreaplasmaの尿素からの主要なATP獲得経路と予想されているFoF1型ATPaseを保有しないにも関わらず,尿素を使用して増殖できるという矛盾があることに気づいた.この要因についても解析して行く予定である.
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Causes of Carryover |
申請時に,Ureaplasma cetiは温暖地域と寒冷地域に依存して温暖地域のイルカで2タイプ,寒冷地域のイルカで1タイプの計3タイプに分類されることが判明していた.そしてこのタイプごとのゲノム比較を行うことで,Ureaplasma cetiがイルカ類と緊密に共進化を遂げた細菌種であることが証明できると予想された.そこで2023年度は各タイプのウレアプラズマの分離を試みた.その結果,温暖地域の2タイプの分離培養に成功して,全ゲノム比較を行った.ANI(95%以上で同種)は90.96%,dDDH(70%以上で同種)は40.4%であり,別種と疑いがあると同時に温暖タイプ間でも機能的に大きな差があることが予想された.寒冷タイプのゲノム解析が実施できれば,イルカの分子系統解析と照らし合わせ,進化解析が可能になる.だが寒冷タイプのウレアプラズマは温暖タイプのウレアプラズマの分離培養法では培養ができない問題点があり,全ゲノム解析を行えずその分の予算が余ってしまった.2024年度は分離培養を成功させて,差額分を寒冷タイプのウレアプラズマの全ゲノム解析に補填する予定である.
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Research Products
(10 results)
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[Presentation] 分子系統解析から探るハクジラ類と新種ウレアプラズマ属細菌の共進化.2023
Author(s)
千田詠葉, 瀬川太雄, 山本桂子, 木嶋祥子, 天羽賢人, 伊東隆臣, 植田啓一, 加来雅人, 神尾高志, 白形知佳, 進藤英朗, 和田夏海, 伊藤琢也
Organizer
第29回日本野生動物医学会
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