2023 Fiscal Year Research-status Report
Ionic regulation of hemolymph in euryhaline crabs: the roles of minor cations
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23K05597
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Research Institution | Suzuka National College of Technology |
Principal Investigator |
山口 雅裕 鈴鹿工業高等専門学校, 生物応用化学科, 教授 (00360660)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
豊田 賢治 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 特任助教 (00757370)
甲斐 穂高 鈴鹿工業高等専門学校, 生物応用化学科, 准教授 (50518321)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 体液調節 / 広塩性カニ類 / 遺伝子発現 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヤマトオサガニやアシハラガニなどの広塩性カニ類は、淡水中でも海水中でも生存できるが、海水と同程度の塩濃度の食塩水中では、過度にNa+を取り込み、このため体液イオンバランスが崩れて短時間のうちに斃死する。この過度なNa+の取り込みの原因を明らかにするため、私たちはヤマトオサガニのエラにおいて、食塩水、淡水(低濃度食塩水)、疑似海水の3条件下で発現が変動する遺伝子をRNAseqによって網羅的に解析した。その結果、特に食塩水と疑似海水の比較により、マイナー陽イオンによって発現が調節されると考えられる遺伝子が多数同定された。私たちは当初、疑似海水では発現が低下するが、食塩水中では淡水中と同様に発現が上昇する遺伝子を想定して実験を行っていた。しかし、そのような遺伝子だけでなく、淡水中では発現が低下し、疑似海水中では発現が亢進、食塩水中ではさらに疑似海水中よりも発現が亢進する、という遺伝子が多数同定された。 エラでのNa+輸送は、Na+/K+ ATPaseやNa+/H+ exchangerなどによって行われていることが従来から報告されていた。しかし、今回の結果から、従来知られている輸送体だけではなく、Na+と一緒にアミノ酸を共輸送する輸送体など、何種類かの輸送体の発現が食塩水条件下で上昇することが分かり、これらの輸送体がエラにおけるNa+の取り込みを促進すること、これらの遺伝子の過剰発現が食塩水中でNa+を過度に取り込む原因となっていることが示唆された。また、チャネルや輸送体遺伝子の他にも、Na+/K+ ATPaseの発現を促進することが知られているホルモンがエラにおいても食塩水条件下で強く発現誘導されるなど、食塩水中で過度のNa+の取り込みを誘導する原因となる遺伝子の興味深い候補がいくつか同定できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究初年度にあたる2023年度は、過剰なNa+取り込みの原因となる候補遺伝子をRNAseqによって同定することとしていた。おおむねこの目的は果たせたと考えている。特に、当初は各条件下で1個体ずつ解析する予定だったが、3個体ずつ解析できたため、信頼性の高いデータを得ることができた。2024年度以降、これらの遺伝子の発現を抑制して表現型を解析する素地が整ったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
得られた候補遺伝子のcDNAを実際にクローニングし、その塩基配列を同定する。それをもとに、各条件下でこれら遺伝子の発現をリアルタイムPCRやin situ hybridizationによって解析する。さらに、得られた配列をもとにRNA干渉のための二本鎖RNAを合成し、これを個体に注入し、食塩水中で飼育し、この時の表現型(生存率・体液Na+濃度、体液浸透圧など)を解析することにより、これらの遺伝子が食塩水中での過度なNa+取り込みの原因遺伝子であるかどうかを突き止める。 これ等の結果を総合して、マイナー陽イオンがどの遺伝子の発現を制御し、どのような影響を与えているのかを突き止め、体液調節におけるマイナー陽イオンの役割を明らかにする。
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Causes of Carryover |
RNAseqの実験をヤマトオサガニだけでなくアシハラガニでも実施する予定だったが、能登地震被災などの影響により、2023年度は実施できなかった。2024年度に実施する予定であり、すでにサンプルは調製済みである。また、当初の予定よりもミクロトームを安価で購入することができた。このため、2024年度以降の遺伝子発現解析、遺伝子抑制実験のための試薬などにその分を充てることができると考えている。
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