2023 Fiscal Year Research-status Report
SARS-Cov-2の5'UTR, Nsp1によるヒトリボソームの翻訳制御機構の分子基盤
Project/Area Number |
23K05673
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
岩崎 わかな 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 専任研究員 (00332289)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | リボソーム / 電子顕微鏡 / ウィルス |
Outline of Annual Research Achievements |
SARS-Cov-2は、全長RNAのほかに、サブゲノムを産生することが知られている。サブゲノムは、5’UTRのうちの3本のステムループ(Leaderと呼ばれる)に、コード領域とpolyAが連結した配列を持つ。SARS-Cov-2の5’UTRまたはleader配列の後に、ウィルスタンパク質の代わりにluciferase配列を入れたmRNAを作成した。これらのmRNAを用いて、cell extractを用いた無細胞翻訳系にて翻訳反応させたところ、両者とも通常のcapped mRNA と比べて遜色のないluciferaseの発光を示した。さらにこれらにNsp1を加えたところ、通常のcapped mRNA と比べて、Nsp1に対する耐性があることが確認できた。しかし、cell extractを使わずに、最小限の精製翻訳因子を再構成した翻訳系を用いると、leaderを含むmRNAは通常のcapped mRNAと同等の翻訳活性を示したが、SARS-Cov-2 5’UTRを含むmRNAはほとんど翻訳活性を示さなかった。このことから、5’UTR依存的翻訳には未知の因子が必要と考えられ、SARS-Cov-2は、5’UTRとLeaderを細胞内の環境によって使い分けて翻訳を行っている可能性が考えられた。5’UTR配列は複雑な高次構造を持つため、この高次構造を解消するための因子が必要と予想し、RNAヘリカーゼであるDDX3, UPF1を候補として考えた。DDX3は、HIV-1の5’UTRなど、高次構造を持つ5’末端依存的な翻訳を促進することが知られている。一方、UPF1は、nonsense-mediated mRNA decay機構の中心的な因子として知られている。これらを再構成翻訳系に添加してみたが、SARS-Cov-2 5’UTR依存的翻訳はほとんど促進されなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
機能・構造解析に必要なSARS-Cov-2 5’UTRまたはLeaderを含むRNAを作成し、それらが翻訳能をもち、かつ、Nsp1による翻訳阻害に対する耐性を持つことを確認できた。 さらに、再構成無細胞翻訳系を用いることによって、SARS-Cov-2の5’UTRとリーダーとの翻訳機構に違いがあることが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
SARS-Cov-2が産生するタンパク質 Nsp1は、ヒトリボソームを標的として、ヒトmRNAの翻訳を阻害し、また、ヒトmRNAの分解を促進する。一方で、SARS-Cov-2のRNAは、Nsp1による翻訳阻害およびRNA分解を回避できる。これはSARS-Cov-2 5’UTRがNsp1と相互作用することにより、ウィルスRNAと宿主由来RNAを区別しているためと考えられている。この機構を明らかにするため、SARS-Cov-2 5’UTRとNsp1がリボソーム上で結合した複合体の立体構造解析を試みる予定である。本年度はその準備となる試料調製ができたので、今後は電顕データの収集に着手する。
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Causes of Carryover |
学会参加費および旅費が不要となったため。また、今年度は試料調製と活性測定を主に行い、電子顕微鏡をほとんど使用しなかったた。
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