2023 Fiscal Year Research-status Report
Analysis of the mechanism of the epithelial structure formation reflecting the regenerative polarity of the zebrafish fin ray
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23K05833
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
和田 直之 東京理科大学, 創域理工学部生命生物科学科, 教授 (50267449)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ゼブラフィッシュ / 尾ビレ / 再生 / 極性 / 上皮組織 |
Outline of Annual Research Achievements |
ゼブラフィッシュ尾ビレを部分的にくり抜くと,孔は近位面から塞がり再生するが,遠位面からはほとんど再生しない。本研究は,ヒレ鰭条をくり抜き除去した時の「再生極性」機構の解明を目的とし,孔の近位面に優先的に形成されて再生を促す上皮性シート構造に注目している。申請者の予備実験では,遠位面と近位面の接触を一定の時間阻害すると遠位面から再生が始まる,という知見を得ている。今年度は,再生しない遠位面組織が再生するようになる過程での細胞・組織動態変化を調べた。 1. 遠位面が再生を始めるまでの細胞動態解析:鰭条くり抜き操作を行い,「①再生する近位面」「②再生しない遠位面」「③再生を始めた遠位面」の3条件に分けて,細胞増殖,細胞極性変化を調べた。このうち,再生しない②の面では増殖は起こらないが,再生を始めた③では,まず上皮での増殖が観察され,次いで間葉組織が増殖した。このような増殖組織の変化は,通常再生①で観察される変化と同じであった。ゴルジ体の細胞内分布を指標に細胞の極性変化を調べた結果,通常再生①では孔方向への極性を示すが,②では特定の極性を示さなかった。しかし,操作により再生を始める過程(②から③への移行過程)では,孔方向への安定した極性を示した。以上から,遠位面での再生を誘導・維持するには,近位面と遠位面の接触を72ー96時間阻害する必要があることが考えられた。 2.近位面で優先して上皮シート形成が起こる機構の解析:通常のヒレ再生過程で活性化されるカルシニューリン経路に注目し,活性化因子のFK506処理をして,近位面や遠位面での再生状態を調べたが,明らかな再生促進は確認できなかった。一方,近位面と遠位面の再生能の違いとして,組織再生時に増殖制御に関わるYapタンパク質の細胞内局在変化を仮定して,抗体を用いて分布を比較したが,遠位面と近位面で違いは確認されなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験自体は概ね順調で,実験に応じた実験結果も出ている。申請時の計画としては,研究期間の前半に「1. 上皮シート状構造形成過程での細胞動態解析と系譜解析」,全期間で「2. 上皮シート形成を近位に制限する因子や機構の解析」および「3. 上皮シートで発現する遺伝子群の解析」に取り組むことにしていた。今年度の解析では主に1について行い,細胞増殖変化と細胞の向き(極性)についての知見が得られた。再生が起こる近位面と起こらない遠位面での違いについての知見が得られ,また遠位面での再生を促した時の細胞挙動変化についての知見も得られた。一方,細胞の系譜解析については,申請段階から着手しており,上皮細胞が近位面から広がる様子が確認できている。全体として,概ね,作業仮説に沿った知見が得られている。 2と3のうち,2については,カルシニューリン経路と,Hippo経路を担うYAPタンパク質の分布変化の点から確認したが,現段階では顕著な違いは確認できていない。これについては,計画段階からb-catenin経路やPCP経路など他の経路の関与の可能性も考えていたので,次年度以降は再生に関わる別の分子機構について検討する。なお,本研究の目的は,再生過程の解析ではなく,再生が起こる面と起こらない面の違いを理解することである。この視点から,今年度の結果を振り返ると,再生関連分子の解析だけでは,極性制御に関わる分子についての知見は得られない可能性もあると考えている。この点を踏まえ,次年度は,3の遺伝子解析について着手し,孔の片方だけで発現変動する分子やシグナル経路についての知見を得たい。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 上皮シート状構造形成過程での細胞動態解析:ここまで示したように,研究全体は概ね順調に進んでいるので,以降は,細胞骨格の方向や分裂,細胞間接着やECM分泌・蓄積の方向などについても示し,再生する面としない面での細胞動態変化の全体像をまとめる。 2.上皮シート形成を近位に制限する因子や機構の解析:「進捗状況」に記載したように,本研究で目指す「再生極性の実体(極性制御に関わる分子)の解明」は,再生関連分子の解析だけでは難しい可能性がある。この点を踏まえ,早めに次項3の遺伝子解析について着手し,再生関連遺伝子にとどまらず,孔の片方だけで発現変動する分子やシグナル経路についての知見を得たい。 3. 上皮シートで発現する遺伝子群の解析:孔の近位面と遠位面を構成する細胞のRNA-seqによるトランスクリプトーム解析に着手する。くり抜き操作後24時間での「孔の近位面」「孔の遠位面」「非操作鰭条(未切断)」のmRNAを比較し,孔の近位面で発現上昇または下降する遺伝子,及び遠位面で発現上昇または下降する遺伝子をリストアップする。同じ系でGO解析も行い,変動量の大きい分子(またはシグナル経路)のうち,細胞や組織極性への関与が考えられるシグナル経路に関する分子群に注目して発現解析を行う。
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Causes of Carryover |
令和5年度の直接配分額は170万円であり,繰り越し額は34059円である。購入した機器および試薬類で概ね計画通りに実験が進んだことから,全額を使用することはせず,次年度への繰り越しとした。次年度は,RNAseqの外注などを予定しており,また研究成果発表(学会参加,論文公表)などでも支出が増えることから,次年度配分額と今年度の繰越額をあわせた約95万円の使用は可能である。
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