2023 Fiscal Year Research-status Report
細胞外マトリクス分子の自己組織化による感覚器官の作り分け
Project/Area Number |
23K05838
|
Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
板倉 由季 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (50773800)
|
Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | ECM / 器官の作り分け / クチクラ / 形態形成 / 自己組織化 / ショウジョウバエ |
Outline of Annual Research Achievements |
生物の体表は、哺乳類では死細胞を含む角質層、魚類では鱗と粘液、昆虫ではクチクラによって覆われている。これらの構造はapical細胞外マトリクス(apical ECM)と呼ばれ、表皮細胞上に構築されたナノスケールの精緻な構造によって、生体を守り、かつ外界との相互作用、物質交換・感覚受容・身体運動等を可能にする。しかし、細胞外に分泌されたECM構成分子がどのように構造化されるのかは不明である。ショウジョウバエの成虫頭部には多数の毛器官が見られ、それぞれ機能に応じた特有のECM、クチクラ構造をとる。嗅覚毛には、匂い分子を通す30nm径の孔が数百個あり、味覚毛には味物質を通す100nmの孔が先端に1つだけある。機械刺激受容毛は非常に長く、それを支えるための厚いクチクラが作られる。神経支配されない小刺毛のクチクラは標準的で、表皮上のクチクラと似ている。このように、クチクラの構造は、器官の機能を果たすために非常に重要である。そこで本研究は、これら四種類のクチクラ構造を作り分ける仕組みの解明を目指す。aECM構成分子であるZona Pellucida (ZP)タンパク質ファミリーは、四種類の毛器官の種類によって異なる分布を示し、各々の発現抑制・亢進によってクチクラ形態を変化させることがわかってきた。また、細胞外での自己組織化を示唆する挙動を示した。そこで本研究では、各ZPタンパク質、およびZPタンパク質の組み合わせにより形成されるECM構造の機能解明を通じて、クチクラ構造の作り分け機構の理解を目指す。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ECM構成分子として知られるZPタンパク質について、本研究以前から着目していた二種類に加え、新たに三種類がショウジョウバエ成虫頭部の様々な部位でECMを形成していることを、抗体作製および免疫染により明らかにした。五種類のZPタンパク質は、嗅覚毛、味覚毛、機械刺激受容毛、小刺毛を形成する細胞それぞれで特異的な局在パターンを示した。そこで遡って分泌されるタイミングを観察すると、各ZPタンパク質の分泌には時空間的なパターンが存在し、それにより様々なECM構造が作られることが示唆された。一方、クチクラ構造の電子顕微鏡観察により、これまで報告されてこなかった微細構造を複数見出すことができた。今後はZPタンパク質の局在を操作し、クチクラ構造との対応付けを行うことで、各ZPタンパク質やZPタンパク質の組み合わせによって作られたECM構造の機能を明らかにしていく。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでに、正常な個体における五種類のZPタンパク質の局在パターンと、電子顕微鏡レベルでの四種類のクチクラ構造を詳細に観察してきた。また、各ZPタンパク質の発現を抑制または亢進した試料を準備しているところである。計画の通り、各条件でのクチクラ構造を観察することで、各ZPタンパク質やZPタンパク質が組み合わさって作るECM構造の機能を明らかにしていく。あるZPタンパク質の発現を操作すると他のZPタンパク質にも影響が及ぶ例がすでに複数確認されたため、結果の解釈は困難な場合もあるが、必要に応じて追加実験を行い調べる。クチクラ構造の作り分け機構について理解が進めば、機構に基づいてZPタンパク質の発現操作を行い、生体内での毛器官の作り変えや、培養細胞上でのクチクラ構造再現実験にも取り組んでいく。
|
Causes of Carryover |
ZPタンパク質の局在を可視化するため、抗体作製と並行して、蛍光タグをZPタンパク質にノックインしたショウジョウバエ系統の作製を予定していた。抗体作製がうまく進み可視化ができたため、ノックイン系統の作製は一旦停止した。しかしライブイメージング・深部のイメージングなど他の目的もあるため、次年度に行うこととした。
|