2023 Fiscal Year Research-status Report
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23K05852
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
宇田 幸司 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 准教授 (10448392)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | D-アミノ酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
D-アミノ酸はL-アミノ酸の鏡像異性体であり、過去には生物体内には存在しないと広く考えられていた。しかし、近年の分析技術の進化により、この見解が変わりつつある。実際に、多くの動物種からD-アミノ酸が検出され、これまでに十種類以上の異なるD-アミノ酸が同定されている。しかしながら、これらのD-アミノ酸の生合成経路は未だに十分に理解されておらず、生化学的な詳細は依然として未知のままである。一般的には、D-アミノ酸は対応するL-アミノ酸からアミノ酸ラセマーゼという酵素によって合成されるとされているが、動物体内で確認されているD-アミノ酸の種類に対応する全ての種類ののアミノ酸ラセマーゼはまだ発見されていない。 本研究は、動物におけるD-アミノ酸の多様な合成経路を明らかにすることを目的としている。この研究の一環として、本年度は節足動物、軟体動物、環形動物など、複数の動物門に属する生物のゲノムからアラニンラセマーゼと類似する遺伝子を単離した。これまでの我々の研究から、アミノ酸ラセマーゼ遺伝子はその基質特異性を容易に変化させることが可能であり、アラニンラセマーゼの相同遺伝子が新たなタイプのラセマーゼ活性を持つことが期待された。単離した遺伝子のうちいくつかについては、実際にそのリコンビナント酵素がアラニン以外のアミノ酸へのラセマーゼ活性を示しており、これがアラニンラセマーゼ遺伝子が新たな基質に適応する能力を有することを示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、節足動物、軟体動物、環形動物、鰓曳動物、刺胞動物、星口動物の各動物門に存在するアラニンラセマーゼの相同遺伝子の単離と、酵素機能の解析を行った。まず、上記の動物門の生物種の中から、GenBankにゲノム配列が登録されている種について、そのゲノム中に存在するアラニンラセマーゼの相同配列を探索した。その結果、これらの動物門に属する十数種類の生物種のゲノム中に1つまたは複数のアラニンラセマーゼの相同遺伝子が存在することが明らかになった。次に、見つかったアラニンラセマーゼの相同遺伝子の中から、20遺伝子を選び、人工遺伝子合成によってそのcDNA配列を合成した。合成された遺伝子をクローニング後、タンパク質発現用ベクターであるpET30bベクターにサブクローニングを行った。得られたアラニンラセマーゼの相同遺伝子の発現ベクターを用いて、大腸菌でのリコンビナントタンパク質の発現を試みた。しかし、多くの遺伝子で、タンパク質の発現量が非常に少ない、または発現タンパク質が不溶化した。そこで、様々な発現条件の検討を行った。その結果、幾つかの例外を除き、酵素機能の解析に必要な発現タンパク質を得ることに成功した。酵素活性の詳細については、現在測定を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は、本年度に作製した節足動物、軟体動物、環形動物、鰓曳動物、刺胞動物、星口動物の各動物門の生物種に存在するアラニンラセマーゼの相同遺伝子が組み込まれたタンパク質発現ベクターを用いたリコンビナント酵素の作製とその酵素機能の解析を進める。まず、酵素反応測定に十分な量のリコンビナントタンパク質を合成し、それをアフィニティーカラムクロマトグラフィーを用いて精製する。得られたリコンビナントタンパク質を用いて、各種アミノ酸に対するラセマーゼ活性の有無を検討する。さらに、活性の確認されたアミノ酸については、基質濃度を変えて反応速度を測定し、詳細な酵素活性パラメータの測定を試みる。また、アラニンラセマーゼの相同遺伝子のリコンビナントタンパク質が示す、各種アミノ酸への基質親和性と、酵素タンパク質のアミノ酸配列の関係性を検討し、基質認識部位の特定も進める。
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Causes of Carryover |
本年度は多くの遺伝子を単離し,大腸菌での発現を行う発現ベクターpET30bに組み込んだ。かし、多くの遺伝子で、タンパク質の発現量が非常に少ない、または発現タンパク質が不溶化した。そこで,十分な量の発現タンパク質を得るための条件検討を行った。この条件検討に多くの時間を費やしたため,本年度に予定していた酵素活性測定の一部が行われなかった。そのため,本年度に計上していた酵素活性測定費用の一部が未使用となった。 本年度の未使用額を次年度使用額として用い,本年度に行う予定であった酵素活性測定を次年度に行う。
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