2023 Fiscal Year Research-status Report
北海道産アザミ類植物(キク科)の起源と多様性獲得の解析
Project/Area Number |
23K05887
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊藤 元己 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任研究員 (00193524)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上原 浩一 千葉大学, 大学院国際学術研究院, 教授 (20221799)
|
Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | アザミ属 / 北海道 / 種分化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、7月に北海道の日高地方、道東、上川地方、9月に道南へのフィールド調査に出かけ、北海道産のアザミ類について、形態変異解析用の試料、ゲノムサイズ測定用の生葉、DNA解析用の試料の採取を行った。 採取した生葉はフローサイトメーターによりゲノムサイズを測定し、倍数性の推定を行った。その結果、2倍体、3倍体、4倍体が存在することが明らかになり、対象の各分類群の倍数性が明らかになった。 今回採取したサンプル、およびこれまでに収集した北海道産アザミ類について、乾燥葉からDNAを抽出し、MIG-seq法によりゲノムワイドのSNPsによる遺伝的解析を行った。その結果得られた系統ネットワーク図およびNJ法により作成した系統樹から、葉緑体全ゲノム配列から明らかになった北海道系統のナンブアザミ類は単系統となり、北海道に産する本州系統のナンブアザミ類とは大きな遺伝的分化が見られた。さらに北海道系統群内の遺伝的分化は遺伝的分化が極めて低く、比較的新しい時代の分化であると推定される。また、4倍体の植物(広義のチシマアザミ)は、種単位ではなく、地域ごとに緩やかなまとまりが見られた。これは、現在種として認識しているまとまりは、進化過程を反映していない、あるいは地域内での交雑が頻繁に起こっている可能性が予測される。2倍体の種では、広義のエゾノサワアザミに含まれていた種は蛇紋岩地域に分布するチカブミアザミおよび未記載の森林性のエゾノサワアザミ近縁種と共に単系統群を形成した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
北海道の道南、日高地方、道東、上川地方における2度のフィールド調査により、143個体という十分なサンプルを入手することができた。その試料を用いてフローサイトメーターによるゲノムサイズ測定により、北海道産アザミ属植物の74個体の倍数性が決定でき、初年度としては十分な種数について倍数性を明らかにできた。これにより北海道産のアザミ属植物でゲノムサイズが未測定の種はリシリアザミとテシオアザミの2種のみとなり、これらは2024年度に試料を入手する予定である。全体の遺伝的解析については、MIG-seq法により得られたSNPsによって系統関係の概要を明らかにすることができた。まだ、予備的な解析ではあるが、その結果から、葉緑体全ゲノム塩基配列によって明らかになったナンブアザミ節植物の北海道系統が本州系統とは大きく遺伝的に分化していることが確認された。また、北海道系統は遺伝的分化が低く、従来の分類での種の取り扱いを再検討する必要がある事が明らかになった。
|
Strategy for Future Research Activity |
2024年度はまだフィールド調査を行なっていない道北地域を中心に試料のサンプリングを行う予定である。特に利尻島に固有のリシリアザミについては、北海道系統であるか、本州系統であるかが未調査であるため、優先的に試料の収集を試みる。また、これまでの解析で単系統性が明らかになった2倍体種のエゾノサワアザミ群についてはサンプリングが十分でないために追加サンプルの収集を試みる。これらの試料を合わせてより詳細なMIG-seq解析を行い、北海道全域のアザミ属植物の遺伝的分化を明らかにする予定である。また、2023年度および2024年度のフィールド調査において収集した試料および国立科学博物館に収蔵されている標本を用い、頭花の形態について検討を行う。従来の分類において重要視されてきた総苞片の形態を中心として、個体内、集団内及び集団間の変異を明らかにし、遺伝的分化の情報を加味して、種の範囲をどのようにするかを検討し、北海道産アザミ類の分類について再検討を行う予定である。
|
Causes of Carryover |
購入予定していたDNA解析用試薬が一部入荷が遅れたため、少額の未使用額が生じた。この入荷の遅れのために2023年度に予定していた研究への影響は最小限である。この未使用額は2024年度初めに試薬が入荷して使用する予定であり、全体の研究に支障は生じない。
|
Research Products
(2 results)