2023 Fiscal Year Research-status Report
最終氷期から現在に至る,日本の湿原の菌類多様性変遷史
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23K05895
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
糟谷 大河 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 准教授 (90712513)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
保坂 健太郎 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 研究主幹 (10509417)
伊永 隆史 慶應義塾大学, 自然科学研究教育センター(日吉), 訪問教授 (30124788)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 菌類 / 湿原 / 分類 / 系統 / 堆積物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,本州の湿原において,最終氷期以降の菌類多様性と環境の変遷史を,現生の菌類の多様性とDNA情報,堆積物中の菌類遺体や植物病痕,そして環境の推移に基づき整理し,湿原生菌類群集の形成過程と変動に焦点を当て明らかにすることを目的とする。野外調査による菌類子実体の採集に加え,土壌などの環境試料からDNAレベルで菌類を検出し,現在の日本の湿原における菌類多様性を解明する。さらに,湿原堆積物をボーリング掘削し,堆積物の層相と菌類遺体や植物病痕の消長変動パターンを複合し,最終氷期,後氷期から現在に至る湿原の菌類多様性の変遷を明らかにする。
2023年度の研究では,新潟県の火打山,長野県黒姫山麓の大ダルミ,そして石川県の白山に位置する湿原にて野外調査を行った。その結果,複数の未記載種や日本新産種を含む担子菌類や子嚢菌類の子実体を採集し,それらの標本を作製するとともに,形態的特徴の観察ならびにDNA塩基配列情報の取得を行った。DNA塩基配列については,菌類の正式なバーコード領域である核ITS領域と,これに加えて核LSUの塩基配列を決定済みであり,一部の菌類においては塩基配列情報に基づき系統解析を行い,系統的位置を解明した。また,新潟県など複数地域の湿原より土壌試料を採集して,核ITS領域を標的としたアンプリコンシーケンス解析を行い,DNAレベルでの湿原生菌類の多様性解析を予察的に行った。さらに,長野県の大ダルミ湿原にてハンドボーリングを行い,ボーリングコアを取り出し,堆積物を採集した。掘削したボーリングコアの一部について水洗篩分を行い,菌類遺体や植物病痕を実体顕微鏡下で拾い上げ,計数,同定を行った。
以上の成果の一部は,論文や学会発表により公表した。また,研究分担者や研究協力者と協議をすすめ,2024年度からの調査の具体案を作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は本研究の基盤となる,日本の湿原における野外調査により得られた菌類の子実体からのDNA塩基配列情報の蓄積・解析や,形態的特徴の観察を進めることができた。その結果,複数の新種や日本新産種と考えられる菌類の存在を見出すことができ,今後の研究推進への具体的な方策を検討することができた。特に,ヒナノヒガサ属,ホコリタケ属,ベニタケ属,チチタケ属,ヌメリイグチ属など,複数の湿原生担子菌類の分類群について,未記載種や日本新産種の系統分類学的検討を開始することができた。また,湿原土壌を用いたアンプリコンシーケンス解析により,湿原生菌類の多様性をDNAレベルで網羅的に解析することが可能であることを,予察的に確認できた。しかし,湿原におけるハンドボーリングによる堆積物の採集は,機材調達や許可申請が遅れたため,本年度は野外調査を行った1か所(長野県の大ダルミ湿原)でしか実施することができなかった。また,堆積物中からの菌類遺体・植物病痕の検出や,堆積物の層相の解析も,調査時期が当初の計画よりも遅れたため,十分に進めることができなかった。以上のことから,本研究の進捗状況はやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き,関東地方や中部地方を中心とした湿原において野外調査を行うとともに,菌類の子実体の採集を進める。これによりDNA情報の蓄積,DNA塩基配列情報の解析と形態観察を進め,各調査地における湿原生菌類の多様性解明を進めていく。また,本年度に十分に実施することができなかった,各調査地におけるボーリング掘削による堆積物の採集を重点的に進め,堆積物中から菌類遺体や植物病痕を検出し,それらの形態的特徴の観察に基づき同定と分類を行う。そして,堆積物の層相(堆積相,泥炭層の発達具合や周氷河性構造土の有無など)を観察し,堆積年代や気象条件の変化などを解析するとともに,堆積物の一部をAMS年代測定試料とし同位体比分析を行い,堆積年代の詳細な推定を進める。以上の調査・解析結果を統合し,各調査地における湿原生菌類の多様性の変遷を推定していく。
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Causes of Carryover |
野外調査を行うための許可申請や調査時期の設定が当初の計画よりも遅れたため,当初予定していたよりも野外調査の実施地域や頻度が少なくなった。そのため,調査に際して必要であると計上していた消耗品購入や旅費の支出も当初の予定より少なくなったことから,次年度使用額が生じた。次年度は,調査計画やそれに必要な許可申請をより効率的に進め,適切に資金を執行していく。
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