2023 Fiscal Year Research-status Report
好酸性亜硝酸酸化細菌Nitrobacter sp. A67株で解き明かす酸性環境での硝化菌のすがた
Project/Area Number |
23K05923
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
諏訪 裕一 中央大学, 理工学部, 教授 (90154632)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤谷 拓嗣 中央大学, 理工学部, 助教 (50708617)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 亜硝酸酸化 / 亜硝酸酸化細菌 / 好酸性 |
Outline of Annual Research Achievements |
酸性(pH3.7)から中性(pH7.3)でのNitrobacter sp. A67株の増殖能を,亜硝酸から硝酸への生成を指標に検討した。生理学・生化学実験で汎用されるリン酸バッファーではより低いpH域での生理試験を行うことができないため,このような広いpH領域での実験が実施できるphosphate-citrateバッファーを新たに調製した。このバッファーは試験するすべてのpH条件に適用できるため,試験の結果がバッファーに影響されるという事態を避けることができた。この試験を実施した結果,A67株の増殖はpH4.7以下では認められず,pH5.3と5.8で高い硝酸生成がみとめられた。ただし,pH5.3では,より長いlagが観察された。この結果は,A67株が中程度に好酸性なNOBであることを示す。 興味深いことに,A67株は,その培地に亜硝酸を添加しないにも関わらず,従属栄養細菌の培養に汎用される培地(TSB/4)で生育することを観察した。亜硝酸をエネルギー源として添加した無機塩類だけで作成された培地でのA67株の培養は濁りを生ずることがないが,TSB/4でのA67株の培養ははっきり目視できる濁りを生じた。このことは,TSB/4でのA67株の最大増殖量は無機塩類培地での増殖量を大きく上回ることを示唆する。実際,TSB/4培地で培養することで,A67株の全ゲノムを解析するのに十分な量の新鮮なバイオマスを,想定していたよりも速やかに,かつ,はるかに容易に獲得できた。A67株の新鮮なバイオマスから,全ゲノムを取得した。また,A67株の比較対象とする好中性のCN101株を用いて,NOB株からのtotal RNAの抽出方法を確立した。この方法は系統的にも遠くないA67株にも適用できる可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
理由1.この研究の隘路は,A67株の培養の困難さにつきる。NOBは無機物(亜硝酸塩)をエネルギー源,CO2を炭素源とするため,有機物を利用できる細菌に比較して,最大の増殖量が1/1000レベルであることは良く知られている。さらに,NOBのエネルギー源である亜硝酸塩は,生物全般に対しての毒性が高く,高い濃度で培地に供給できない。さらに,亜硝酸塩は酸性で毒性が非常に高くなることが知られている。そのため,本研究の成否は,いかにしてA67株の全ゲノムを解析するのに十分な量の新鮮なバイオマスを獲得するかにあると考え,無機塩培地でのさまざまな培養方法を立案していた。この問題は,A67株がTSB/4培地で生育することを見出したことで一気に解消され,計画よりもはるかに早く全ゲノムを獲得できた。 理由2.NOB株からのtotal RNAの抽出例は皆無であり,新鮮なバイオマスの獲得の難しさも併せて,研究の見通しをつけるまでの困難が予想された。しかし,CN101株を用いてNOB株からのtotal RNAの抽出方法を確立することができ,さらにトランスクリプトーム解析が実施できることを実証した。これらの抽出・解析方法はA67株にも適用できるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
計画通りに研究を進める。これまでに,好酸性NOBであるA67株とその比較対象である好中性のCN101株のいずれも全ゲノム情報が得られている。それらを対象に,比較ゲノム解析を慎重に進める。 A67株が,従属栄養細菌用の培地であるTSB/4培地でも亜硝酸を酸化する能力を持っているかどうかを検討する。TSB/4での亜硝酸酸化能が明らかになった場合,TSB/4で獲得したA67株のバイオマスについての,酸性および中性での亜硝酸酸化の生理学およびゲノム科学を対比することができるものと考え,トランスクリプトーム解析を行う。それと並行して,独立栄養で培養した場合でもトランスクリプトーム解析ができるほどのバイオマス量を獲得することを目標に,A67株の無機塩培地での培養方法の改善に取り組む。 酸性および中性でのA67株の形態や微細構造の違いに着目し,走査型・透過型電子顕微鏡での観察に取り組む。
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