2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23K06012
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
柿澤 昌 京都大学, 薬学研究科, 准教授 (40291059)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 活性酸素 / イメージング / 小脳 / シナプス可塑性 / LTP / カルシウム / 老化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、活性酸素(ROS)シグナルによる記憶・学習に対する正・負の制御機構について分子レベル・化学修飾レベルでの解明を進めることを目標とする。本課題は、1. 神経活動依存的な活性酸素(ROS)の産生、2. 加齢に伴う小脳シナプスの長期増強(LTP)低下の分子機構と抗酸化物質による抑制効果と言う二つのテーマから成るが、2023年度は、それぞれ、1. 神経活動依存的なROS産生を明らかにするため、蛍光プローブを用いたイメージング系を立ち上げること、2.小脳平行線維シナプス長期増強(LTP)の加齢に伴う低下(Neurobiol Aging 2012)の原因として推測される、加齢に伴う一酸化窒素(NO)依存的カルシウム(Ca2+)放出(NICR)の阻害を、Ca2+イメージング法により明らかにすることが計画されていた。 ROSイメージング系の立ち上げに関しては、AmplexRedと言う試薬をperoxidaseとともに細胞内に投与することで、個々の神経細胞レベルでROSシグナルの変動を解析することが可能となった。そして、マウス小脳LTDを誘導する刺激によりROSが産生されること、この神経活動依存的なROS産生は、ROS合成酵素(NADPHオキシダーゼ(NOX)、dual oxidase (DUOX))の阻害薬、apocyninにより阻害されたことから、酵素依存的であることが示された。また、生後18ヶ月齢以上の加齢個体由来の小脳急性スライス標本においては、NO依存的Ca2+放出(NICR)が著しく阻害されること、一方で、同じ1型リアノジン受容体を介するCa2+依存的Ca2+放出(CICR; カフェイン投与により誘導)は若齢個体と有意差が無いことが示された。したがって、生後18ヶ月齢以上のマウス加齢個体においてはNICRが選択的に阻害されることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、活性酸素(ROS)シグナルによる記憶・学習に対する正・負の制御機構について分子レベル・化学修飾レベルでの解明を進めることを目標とし、神経活動依存的な活性酸素(ROS)の産生、加齢に伴う小脳シナプスの長期増強(LTP)低下の分子機構と抗酸化物質による抑制効果と言う二つのテーマから成る。2023年度は、神経活動依存的なROS産生を明らかにするため、蛍光プローブを用いたイメージング系を確立する、小脳平行線維シナプス長期増強(LTP)の加齢に伴う低下(Neurobiol Aging 2012)の原因として推測される、加齢に伴う一酸化窒素(NO)依存的カルシウム(Ca2+)放出(NICR)の阻害を、Ca2+イメージング法により明らかにすることが計画されていた。 研究実績の概要欄にも記載の通り、ROSイメージング系の立ち上げに関しては、AmplexRedと言う試薬をperoxidaseとともに細胞内に投与することで、個々の神経細胞レベルでROSシグナルの変動を解析することが可能となり、マウス小脳LTDを誘導する刺激によりROSが産生されること、この神経活動依存的なROS産生は、ROS合成酵素(NADPHオキシダーゼ(NOX)、dual oxidase (DUOX))の阻害薬、apocyninにより阻害されることが示された。また、生後18ヶ月齢以上の加齢個体由来の小脳急性スライス標本においては、NO依存的Ca2+放出(NICR)が著しく阻害されること、一方で、同じ1型リアノジン受容体を介するCa2+依存的Ca2+放出(CICR; カフェイン投与により誘導)は若齢個体と有意差が無いことが示された。さらに、これらの成果の一部は、国際査読誌に論文として公表された(Kakizawa et al. Redox Biology (2024))ことから、順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度以降は、本研究課題内の2つの項目について、それぞれ、以下の様に推進することを計画している。 1. 神経活動依存的なROS産生とその分子機構の解明:神経活動依存的なROS産生の分子機構について、主に薬理学的手法を用いて解析を進める。2023年度の研究により、神経活動依存的なROS産生へのNADPHオキシダーゼ(Nox)及びDualオキシダーゼ (Duox)の関与を示されたことを受け、引き続き、Nox、Duoxのサブタイプ選択的な阻害薬を投与し、ROS産生を担うNox・Duoxのサブタイプを絞り込む。さらに、小脳運動学習直後の小脳内での標的分子のジスルフィド化修飾の上昇、及びROS産生酵素阻害薬(apocyninなど)による阻害を生化学的手法(ビオチンスウィッチアッセイ法)により検出することで、小脳運動学習時におけるROSの産生を確認する。 2.加齢に伴う小脳LTP低下の分子機構と抗酸化物質の作用:まず、加齢に伴うRyR1のジスルフィド化修飾の増加・蓄積により、NOによるS-ニトロシル化、ひいてはNICRが阻害されるとの仮説を、生化学的手法(ビオチンスウィッチアッセイ法)により検証する。引き続き、加齢に伴う小脳機能の低下にROSが関与するのであれば、抗酸化物質の予備的投与による低下抑制が予想されることから、飲水を通じてクロロゲン酸を投与することで、加齢に伴う小脳運動学習能低下が抑制されることを明らかにする。既に加齢に伴う低下が示されている小脳LTPに加え、LTP誘導に必要なNICR、RyR1のNOによるS-ニトロシル化の加齢に伴う低下が、上記研究により示されることが予想されるが、これらの低下がクロロゲン酸の予備的投与により抑制されることを示す。一連の研究により、抗酸化物質の一種、クロロゲン酸の小脳機能老化抑制効果と、その分子的基盤が明らかとなる。
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Causes of Carryover |
昨今の事情によりホテルの宿泊代が高騰していたため、旅費を多目に計上していたが、実際には、予定よりも安く泊まれる宿泊施設を確保できたため、その分、支出額が少なくなり、若干の次年度使用額が生じた。研究はおおむね順調に進行しており、次年度以降も計画通りに使用する予定である。
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Remarks |
日本経済新聞2024年3月14日付け記事「体内で「悪者」の活性酸素、記憶形成に関与か 京都大学」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC0854E0Y4A300C2000000/
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Research Products
(16 results)