2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23K06123
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Research Institution | Osaka Medical and Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
土屋 孝弘 大阪医科薬科大学, 薬学部, 講師 (60346715)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 多剤耐性菌 / 新規抗菌物質 / アシネトバクター |
Outline of Annual Research Achievements |
世界規模で多剤耐性のグラム陰性桿菌が増加しており、近代医療の制限因子として懸念されている。新たな作用機序を有する抗菌薬の開発は喫緊の課題である。グラム陰性細菌の外膜タンパク質の多くは、β-バレル構造をもつタンパク質である。外膜タンパク質には薬剤排出ポンプなど様々なトランスポーターが含まれており、それらは薬剤耐性やバイオフィルム形成に必須であるため、創薬のターゲットとして有用である。これらの外膜タンパク質のフォールディングや外膜への挿入にはβ-barrel assembly machinery (Bam) 複合体が重要な役割を担っている。Bam複合体はBamA、B、C、DおよびEから構成されており、BamAとBamBおよびBamDが直接結合している。我々はこのBamAとBamDの結合を阻害することにより多剤耐性菌の増殖を抑制し、バイオフィルムの形成も阻害することを明らかとしてきた。そこで、BamAとBamDの結合を阻害する新たな分子を創生し、新規抗菌物質の開発を行うことを目的とした。BamDはBamAのPOTORA1ドメインとPOTORA5ドメインの2か所で結合していると報告されている。そこで、POTORA1ドメインとPOTORA5ドメインのアミノ酸配列を模倣したBamAとBamDの結合を阻害するペプチドを合成し、どちらのペプチドがアシネトバクター・バウマニの増殖とバイオフィルム形成に影響を与えるか測定した。また、結合を阻害するペプチドをタンデムに2つ、3つと繋げたペプチドを使用し、増殖とバイオフィルム形成に与える影響の違いを測定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々はこれまで、アシネトバクター・バウマニをモデル細菌として、Bam複合体の結合阻害物質に細菌増殖やバイオフィルム形成の抑制効果があることを明らかにしてきた。BamAはBamBやBamDと直接結合していることから、その結合に関与するアミノ酸配列を模倣したペプチドを合成し、増殖抑制効果を測定したところ、BamBとの結合阻害よりもBamDとの結合阻害のほうが同濃度で高い増殖抑制効果が認められた。大腸菌ではBamAとBamDは必須タンパク質であるのに対し、BamBは非必須タンパク質であることとも整合性が取れる結果であった。また、BamDはBamAのPOTORA1ドメインとPOTORA5ドメインの2か所で結合していると報告されていることから、いずれの結合阻害ペプチドのほうが効果的かを測定したところ、POTORA1ドメインとの結合阻害ペプチドのほうが高い増殖抑制効果が認められた。次に、ペプチドのペリプラズムへの移行性を高める目的で、ペプチドにリジン残基を付加したところ、リジン残基の数を増やすと同じモル濃度においても高い増殖抑制効果が認められた。そこで、ペリプラズム内のペプチドの濃度をHPLCにより測定しようと試みたが、濃度が薄すぎたため検出することができず、リジン残基数とペリプラズム内のペプチドの濃度との関係は明らかにできなかった。また、ペプチドをタンデムに2つ、3つと繋げたペプチドを使用し、増殖に与える影響の違いを測定したところ、1つの時と比べて2つ、3つと繋げると、その増殖抑制効果は2倍、3倍以上に高まり、BamAとの見かけの結合能が上昇したのではないかと考えられた。これらの結果は、本菌の基準株、臨床分離株、多剤耐性株においても同様の結果となった。これらの結果から、1年目の進捗状況としてはおおむね順調に進展していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの結果から、BamAとBamDの結合阻害物質はアシネトバクター・バウマニの増殖抑制に有効であることが明らかとなった。本菌の多剤耐性アシネトバクターの定義はカルバペネム系、フルオロキノロン系、アミノグリコシド系の抗菌薬全てに耐性を示す株とされている。そこで、まず多剤耐性株にBamAとBamDの結合阻害ペプチドとカルバペネム系、フルオロキノロン系、アミノグリコシド系の抗菌薬の併用により、耐性菌から感受性菌に変化するのかどうかを細菌の増殖を指標に評価する。また、多剤耐性菌感染モデルマウスを作製し、BamAとBamDの結合阻害ペプチドによる治療効果や抗菌薬との併用効果があるかどうかを解析する。また、BamAとBamDの大腸菌による高発現系を構築し、BamAとBamDの結合を阻害する低分子化合物のハイスループットスクリーニング系を構築する。BamAとBamDの結合阻害ペプチドをタンデムに2つ、3つと繋げると、その増殖抑制効果は2倍、3倍以上に高まったことから、BamAとの見かけの結合能が上昇したのではないかと考えられた。そこで、組換えBamAとペプチドを用いて、等温滴定型カロリメトリー(ITC)解析をし、ペプチドをタンデムに繋げることによるBamAとの解離定数などの分子間相互作用の熱力学的プロファイルを解析し、ペプチドの最適化を試みる予定である。
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Causes of Carryover |
2023年度はBamAおよびBamDの大腸菌による高発現系の構築が途中までしか出来ていない。そのため、遺伝子組換え実験試薬の購入が2024年度に持ち越された。2024年度には、残りの高発現系の構築と2024年度に予定していた高発現系の構築を終わらせる予定である。
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