2023 Fiscal Year Research-status Report
プロスタノイドEP4受容体の恒常的活性による細胞増殖速度調整メカニズムの解明
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23K06149
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
藤野 裕道 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(薬学域), 教授 (40401004)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大高 章 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(薬学域), 教授 (20201973)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | EP4受容体 / 大腸がん |
Outline of Annual Research Achievements |
EP4受容体の過活性化がホメオスタシス機構の破綻による大腸がん発症の一因である可能性が高いことから、本研究は、大腸がん治療・予防戦略の鍵となるEP4受容体が担う持続的な細胞増殖・分化亢進にブレーキをかけるための全く新しいターゲット・メカニズムの解明を目指している。そこで、2023年度には、EP4受容体細胞内第3ループ領域 (ICL3)222番目のセリン残基をアラニンに変異させたEP4受容体の細胞内環境の差異が生み出すプロスタグランジンE2(PGE2)依存的な情報伝達系の解析を、そのセリン残基をリン酸化すると考えられているprotein kinase A (PKA)阻害が細胞に与える影響に着目して研究を行った。野生型EP4受容体安定発現細胞にPKA阻害を行いPGE2刺激を行うとアクチンストレスファイバーの形成を伴う細胞形態の変化が認められた。またICL3領域のセリン残基をアラニンに変異させた変異型EP4受容体安定発現細胞にPGE2刺激を行うと、変異導入前と比較してより顕著な細胞形態変化、アクチンストレスファイバーの形成が認められた。以上の結果より、PKAによるICL3領域のセリン残基のリン酸化がアクチンストレスファイバーの形成、それに伴う細胞形態の変化を制御していることが考えられた。この細胞形態の変化は、間葉上皮転換様であり、EP4受容体により活性化したPKAによるICL3のセリン残基のリン酸化の変化が、がんの転移を惹起させる可能性が考えられた。2023年度の結果から、EP4受容体シグナル系が惹起するPKAによる詳細な制御メカニズムを解明することで、新たな大腸がんの悪性化のメカニズムを提案することができる可能性が高いと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度には、EP4受容体ICL3領域の222番目のセリン残基をアラニンに変異させた受容体のPGE2刺激依存的な細胞形態変化について、PKA阻害が与える影響に着目して研究を行った。その結果、このセリン残基がPKAによってリン酸化されないことが、細胞形態を上皮系から間葉系へと変化させる可能性を明らかとした。がん細胞の転移には、上皮間葉転換による細胞形態変化が重要であることから、この222番目のセリンをリン酸化させないことが、がんの転移を予防する可能性を示すことができた。またこの内容について2024年3月20日の日本薬理学会近畿部会において口頭発表を行い、その内容を他の研究者などに紹介することができたことから、本研究は概ね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの予備実験において、一過性に発現させたICL3領域の222番目のセリン残基をアラニンに変異させたEP4受容体(EP4-S222A)、野生型EP4受容体(EP4-WT)、および親株であるHEK-293細胞(HEK)の48時間後の細胞数を比較すると、EP4-WT受容体発現細胞は、親株よりも1.3倍程度の細胞数の増加が見られた一方、EP4-S222A受容体発現細胞は、親株の0.8倍程度の細胞数の増加に留まっていることを明らかにしている。これはすなわち、222番目のセリン残基がリン酸化されないことが細胞増殖を抑制している、あるいはリン酸化されることが細胞増殖を亢進している可能性が考えられる。しかしながら、これらの細胞増殖の違いは、PGE2刺激非依存的であり、同じ親株細胞に発現している受容体自身の恒常活性に起因している可能性が高い。そのため、2024年度は、EP4-WT発現細胞、EP4-S222A発現細胞、および親株としてのHEK-293細胞を比較することで、PGE2非依存的な恒常的活性の機能解析を中心に研究を進める予定である。また予備実験から、EP4-WT発現細胞あるいはEP4-S222A発現細胞のどちらも、親株細胞に比べて、βカテニンの発現量が恒常的に増加している結果が得られていることから、この発現増加は、細胞増殖ではなく細胞分化を制御し、細胞内環境の調整因子としてホメオスタシスを担っている可能性が高い。そこで、ムチン産生量の変化など、分化後の大腸上皮細胞のマーカーについて、あるいは増殖性を制御するサイクリンなどの因子の発現などについて、ウエスタンブロッティング法などを用いて明らかにしたいと考えている。そのことで、EP4受容体が担うホメオスタシス機構と、その破綻によるターンオーバー速度の亢進にブレーキをかける、新たな大腸がん治療・予防法の開発につなげたい。
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Causes of Carryover |
予定していたペプチド合成が行われなかったため、その関連実験のための費用の余剰がでたため、次年度使用額が生じた。翌年度分として請求した研究費と合わせて、その合成と実験を行うため使用する予定である。
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