2023 Fiscal Year Research-status Report
高齢者疲労感の病態解明を目的とした漢方「補剤」の作用機序研究
Project/Area Number |
23K06203
|
Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
岩崎 克典 福岡大学, 薬学部, 教授 (10183196)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡辺 拓也 福岡大学, 薬学部, 助教 (90509647)
|
Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | フレイル / 乳酸 / 人参養栄湯 |
Outline of Annual Research Achievements |
高齢者で生じるフレイルでは、漠然とした疲労感が認められる。しかし、その発現機序は不明である。疲労感すなわち中枢性疲労は、神経細胞のエネルギー枯渇状態であると考えられる。エネルギー源であるグルコースが神経細胞内で枯渇した場合は、アストロサイトから乳酸を神経細胞内に受け取り、エネルギーを維持している。老化促進モデルであるSAMP8マウスは加齢に伴い脳乳酸含量の低下が報告されている。そこで、フレイルで認められる疲労感は、アストロサイトからの乳酸供給システム(乳酸シャトル)の機能不全によるものであると仮説し、SAMP8マウス脳における細胞外乳酸濃度(≒乳酸分泌量)をin vivo microdialysis法により測定した。前帯状皮質の乳酸量は、正常老化モデルSAMR1マウスとSAMP8マウスの間で差は認められなかった。そこで、疲労感を誘発するために強制水泳時の乳酸量を測定した。しかし、強制水泳中においても両者間の乳酸量に差は認められなかった。また、ノルアドレナリンならびにセロトニン量も測定したが、同様に差は認められなかった。以上のことから、SAMP8マウスでは乳酸含量の低下が報告されているが、乳酸シャトルを想定した乳酸分泌量に変化が無いことが示唆された。 人参養栄湯は、疲労に対して処方される漢方薬であり、フレイルにおける疲労感改善に効果が期待される。そこで、人参養栄湯が乳酸分泌量に与える効果を健常マウスを用いて検討した。人参養栄湯の摂取は、前帯状皮質の乳酸ならびにノルアドレナリン、セロトニン分泌量には影響しなかった。このことから、人参養栄湯の疲労感改善作用には乳酸シャトル機能が関与しないことが考えられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の仮説を検証したが、仮説とは異なる結果を得た。しかし、予備検討において、乳酸シャトルではなく、他の因子を考慮した検討を進めているため、おおむね順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
フレイルの疲労感における乳酸シャトル機能不全の関与を当初の仮説としていたが、検討結果から乳酸シャトル機能不全の関与が否定された。意欲や持久力を評価する回転かご走行に着目した予備検討では、人参養栄湯が時間依存的な走行量の増加を引き起こしていることを見出している。今後は、回転かご走行に対する人参養栄湯の効果と時計遺伝子発現への影響を検討する。
|