2023 Fiscal Year Research-status Report
Research on serine racemase as a therapeutic target in Alzheimer's disease
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23K06354
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
森 寿 富山大学, 学術研究部医学系, 教授 (00239617)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井上 蘭 富山大学, 学術研究部医学系, 助教 (70401817)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | D-セリン / NMDA受容体 / アルツハイマー病 / マウスモデル |
Outline of Annual Research Achievements |
アルツハイマー病 (AD) の進行過程にはN-メチル-D-アスパラギン酸型グルタミン酸受容体(NMDAR)の過剰活性化に伴う神経細胞死が関わっている。本研究は、NMDAR活性制御を行う内在性コ・アゴニストのD-セリンに注目し、D-セリンの合成酵素 (セリン異性化酵素 ; SRR) とAD病態の関連を明らかにすることを目的とする。2023年度は、遺伝学的ADモデルマウス(AppNL-G-F/NL-G-F) を用いて、AD病態へのD-セリンの関与を解析した。その結果、AD病態進行に伴い大脳皮質ではSRR発現が減少し、神経細胞死に影響はみられなかった。一方、SRR発現が変化しなかった海馬では神経細胞死の増加が観察された。このことから、SRRの発現制御が神経細胞保護に関わる可能性が見出された。また、AD進行とD-セリンとの因果関係を検証するため、飲水からD-セリンを投与して脳内D-セリン濃度を上げると、ADモデルマウス海馬での神経細胞死が促進された。逆に、脳内D-セリン濃度を低下させるため、ADモデルマウスとSRR遺伝子ノックアウト(SRR-KO)マウスの交配で得られたAD; SRR-KOマウス系統を作製したところ、AD進行に伴うグリア細胞の活性化を伴う神経炎症の抑制と海馬神経細胞死の抑制が観察された。さらに、ADモデルマウス脳で観察されたアミノ酸含量の異常が、SRR-KOにより部分的に回復していた。今回の研究成果によりD-セリンがADの病態に関与していることが示された。また、D-セリン濃度を減らすことがAD進行を抑制する可能性が示唆され、SRRを抑制することがNMDARを介した神経変性病態に対する新たな治療戦略となる可能性が示唆された。本研究成果は、学術論文 (Ni et al., Front. Aging Neurosci., 15:1211067, 2023.) として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、分子神経科学的手法と薬理学的手法を用いて脳内D-セリン動態変化とAD病態の関連解析を進め、脳内 D-セリン動態への介入がADの治療に発展する可能性を検証すること、さらに、独自に作製したSRRの遺伝子発現を発光計測できるSRR-ルシフェラーゼ (SRR-Luc) マウス系統を用い、SRRの発現変化を引き起こす薬物を探索し、ADの新たな病態解明と治療薬の開発に貢献することを目的として計画した。 具体的内容として、1) ADモデルマウスを用いて、脳内SRRの発現変動とD-セリン動態との因果関係を明らかにすること、2) SRR阻害薬候補 (Medecassoside)の作用とその機序を明らかにすること、3) SRR遺伝子発現に作用する薬物を探索すること、の3点である。このうち、1)については、AD病態進行にD-セリンとSRRが関与することを明らかにして、原著論文として発表を行った。2)のMedecassosideは、マウス個体への投与実験を行ったが、脳内D-セリン濃度には影響しないことを見出し、in vitro でのSRR阻害作用が報告されているMedecassosideは、in vivo では作用を示さない可能性を見出している。3) のSRR-Lucマウス系統由来初代培養神経細胞を用いた研究では、富山大学和漢医薬学総合研究所から提供された和漢薬ライブラリーを用い、SRRの遺伝子発現に影響を与える生薬成分などを見出している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画のうち、1) ADにおける脳内SRRの発現変動とD-セリン動態との因果関係を明らかにする項目については、遺伝学的ADモデルマウス(AppNL-G-F/NL-G-F)で、ADのアミロイド仮説に対するD-セリンの影響を明らかにし、当初の目的を達成した。一方で、ヒトADの病理学的特徴の一つであるリン酸化タウタンパク質の神経細胞内蓄積はほとんど観察されなかった。そこで、タウ蓄積と神経細胞毒性に対するD-セリンやSRR発現の影響を明らかにするために、変異型タウ発現AAVをコントロールマウスおよびSRR-KOマウスの脳内に導入し、神経細胞死に対する影響を検討する。2) の SRR阻害薬候補 (Medecassoside)の作用とその機序を明らかにする項目については、既に行った研究でMedecassosideがマウス個体の脳ではD-セリン低下作用を示さないことから、SRR阻害薬候補とはなりにくいと考えられる。したがって、以前に開発を進めたSRRに対する新たな活性阻害薬候補の探索を in silico スクリーニングとin vitroでのリコンビナントSRRに対する作用解析から再度進める方針である。3)のSRR遺伝子発現に作用する薬物の探索の項目では、和漢薬ライブラリーから見出した候補化合物を、野生型マウス由来初代培養神経細胞に投与し、SRRの遺伝子発現に与える影響をRT-qPCRなどの方法で確認するとともに、in vivoでの作用検討や遺伝子発現変化に関与するプロモータ配列の解析を進める予定である。
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Causes of Carryover |
2023年度1月から3月分の共通機器使用料が、2024年度当初に請求されるため、予め繰越しを行った。
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Research Products
(5 results)