2023 Fiscal Year Research-status Report
iPS細胞を用いた感染症リスクSNPの機能解析および遺伝的リスク克服の介入法探索
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23K06582
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
木谷 瑶子 (北川瑶子) 京都大学, iPS細胞研究所, 特定研究員(RPD) (20811409)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | SNP / iPS / マクロファージ / 感染症 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ヒト多能性幹細胞(iPS細胞)由来マクロファージを用いて、感染症の重症化に関わるSNP(一塩基多型)の分子メカニズム解明を目的とした。
本年度はまず、GWAS解析によりウイルス感染症のリスクを上昇させると同定されたSNPリストと、マクロファージにおける近傍遺伝子の発現、該当領域のエピゲノム修飾や転写因子結合の有無を照合し、解析対象のリスクSNPを選んだ。その中で、まずはデングウイルス感染症の重症化に関わるSNPに注目し、リファレンスアレル、ヘテロ変異、ホモ変異を持つiPS細胞を5検体ずつ準備した。これらについて、iPS細胞の形態に異常がないかを確認した上で、マクロファージに分化させたところ、炎症性サイトカインの存在下でリスクSNPを持つクローンは炎症反応が増強されることが明らかになった。例えば、炎症性サイトカインIL-6の発現が顕著に上がった。デングウイルス感染症の重症化ではIL-6が過剰に産生されることから、我々の結果は臨床症状と一致している。関連する分子メカニズムとして、SNP近傍の遺伝子発現には変化がなかった一方で、その下流シグナル関連分子の発現に変化を認めたことから、近傍分子の機能異常の可能性が考えられた。今後より詳細な分子メカニズムを追究する。
並行して、他のSNPについても表現型解析を進めている。環境要因を排除したiPS細胞由来マクロファージを用いることで感度の高いeQTL解析を行い、遺伝的要因の分子基盤を明らかにできると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画予定では本年度、iPS細胞由来マクロファージにおいて遺伝子発現に影響を及ぼす感染症重症化関連SNPを見つけることが目的であった。デングウイルス感染症重症化に関連するSNPについて、マクロファージでジェノタイプにより遺伝子発現プロファイルが顕著に異なることを明らかにし、この表現型が臨床症状と一致したことから、本年度の目的が達成されたと考える。
また、他にも対象とするリスクSNPを見つけており、これらを持つiPS細胞のマクロファージ分化およびマクロファージの表現型解析を順に進めている。
このような結果から、次年度も研究計画通りに進めることができると考えられ、現時点でおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目に引き続き、iPS細胞由来マクロファージの遺伝子発現解析を行い、マクロファージにおいて発現制御に影響を及ぼすリスクSNPを同定する。該当SNPについては、リスクSNPを持たないクローンにリスクSNPをノックインすることで、同一遺伝子バックグランドでSNPの機能を解析する。機能性SNPでない場合、連鎖不均衡により遺伝される近傍SNPの中、かつマーカーSNPを持つクローンで変化のあるエピゲノム修飾領域内に真の機能性SNPが存在する可能性が高い。そこでマーカーSNPを持つクローンを用いてエンハンサーの活性を示すヒストン修飾や転写因子の結合を調べ、機能性SNPの候補を挙げる。
また、iPS細胞由来マクロファージのRNA-seqデータを収集することで、今後のリスクSNPのeQTL解析に活用できることから、本研究課題の目的である2つのSNPの機能解析に加え、当該研究室で樹立済みのiPS細胞を用いてマクロファージの発現プロファイリングを進める。このアプローチにより、従来の臨床検体を用いたeQTL解析を相互補完する形で個別化医療実現に向けた基盤構築に貢献できると期待される。
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